第43話 健一さんの温もりを感じたい

 私と健一さんは今ハウステンボスに来ている。

 

 今日から始まる修学旅行は、旅のしおりを確認したところによると八割遊んでいいらしい。初日にホテルの案内と、注意事項などを聞いて班の人と行動していくとのこと。


 私の班は涼香と川峯さんの三人で行動することになる。二日と三日目の自由時間は涼香に事前に連絡して健一さんと回ることを了承してくれた。


 最初は健一さんを連れて行くことに対して凄く驚いていたけど、「真緒ちゃんとお兄ちゃんがいいなら私は文句は言わないかな」と言ってくれて、川峯さんに関しては「一目でいいから安達さんの彼氏見てみたい!」と言っていたので問題ないと思う。


 本来なら班の人と離れちゃいけないのだけど、先生には内緒で健一さんとの修学旅行デートをする。改めて思うと今から明日が楽しみで仕方ない。


「今は健一さん何してるっすかね…」


 ハウステンボス内にある変なホテルに着き、私たち三人はベッドの上でこれからの事について話している最中、ふと私が考えていることを漏らしてしまった。


「お兄ちゃんは多分仕事してるんじゃないかな?」

「へぇ涼香のお兄さんって何の仕事してる人なの?ここまで来てできる仕事ってそんなにないよね」


「うーんと、人を部屋に泊めたり気持ちよくする仕事?かな」

「涼香その説明間違ってないけど、間違えて聞こえるっす」


 なんでアパートの管理人とエッチな絵の仕事を一緒にして説明しちゃうの…そんな説明したら健一さんがやばい人みたいに川峯さんに認識されちゃうよ。


「えぇ、安達さん大丈夫なの?涼香が説明下手なのは知ってるけど、今の聞いてちょっと心配になったんだけど…」

「大丈夫っす、健一さんはそんな仕事してないっすから」


 その後は川峯さんに変な誤解を生まないように、アパートの管理人である事とエッチな絵の仕事をしている事を説明。


 最初はやっぱり変態なの?と訝し気のある視線を送ってきたが、変態なのは頭の中だけという涼香の発言で何とか納得してくれた。


 その発言に間違えてないから反論できない私は、ただ黙って二人の話に耳を傾けることしか出来ない。健一さんごめんなさい…


 少し話して川峯さんとも打ち解け涼香ほどではないが、ある程度話すことが出来るようになってきた。これで健一さんの心配していた友達問題も解決だ!


 そんな話をしていると、集合の時間になり私たちはホテル前に来ていた。


「それでは今から4時間後の夕食までにはまたここに集合してください、それまでは自由時間ですので皆さん十分に楽しんできてください!」


 という担任の先生からのお話を終え、私たち三人はぶらぶらと歩いてみて回る事に。


「ハウステンボス初めて来るから何があるか分からないっすね」

「一緒に来た事ないもんね、明日香ちゃんはどこ行きたいとかある?」


「私はお菓子食べたいなぁ、インプット的な!色んな物を味わって次の新作のお菓子創りの為に役立てないと!」

「川峯さんはほんとお菓子好きなんすね」


「うん、私はお菓子を愛してるからね!いつかは家を継ぐ予定だし、お菓子の方は私が切り盛りしてきたいね」

「じゃあ、お菓子見に行こうか!ついでにお土産も買って行こ、真緒ちゃんもそれでいい?」


「いいっすよ!」


 沢峯さんの案で一人一万円ずつを出して色んなお店に出向くことになった。カステラの城やチョコレートハウス、お菓子の城、チーズの城…とお菓子を売っている所を走り回り、気になったお菓子があれば買う。


 途中、川峯さんが我慢できない!と言い近くのベンチに座り一つずつ食べ、三人で感想を言い合い実家に送る用と健一さんと食べるようにカステラプリンとブリュレドバームクーヘンを購入した。


「安達さん店員さんを前にするといつもあんなにビクビクしてるの?」

「うん!小動物みたいで可愛いよね、守りたくなっちゃう!!」


「恥ずかしいから言わないで欲しいっす…」


 やっぱり知らない人を前にすると緊張する。そんな姿をみて二人はニヤニヤしているが私はただ恥ずかしい気持ちで一杯だ。


 腹いせに涼香に一杯食べさせたら途中からお腹が限界なのか涙目で美味しい…としか言わないロボットと化していて私と川峯さんで笑ったりして、楽しい三人の自由時間は終わった。


 案の定、夕飯の時間になったのだが隣の涼香は「お腹いっぱい…」と小さくつぶやきながら晩御飯に手を付けている。私と川峯さんはお菓子は別腹なので特に問題なく夕飯を楽しく頂くことが出来たのだけど、少しだけ申し訳ない気持ちを味わうのだった。



*****



 空はもう真っ暗になり、少し離れたところにはハウステンボスのイルミネーションが綺麗に輝いて久しぶりにこういうのもいいなと実感している。


 仕事も一日使って終わらせ納品完了。あとは明日の朝に真緒を迎えに行って一緒にデートだ。こういう学校のイベントを好きな人と回れるのは良いからな、真緒にもいい思い出だったと思って欲しいものだ。


 時刻は二十一時を回り、真緒とは違うホテルで寛いでいるとスマホが鳴り始めた。着信音からして電話、誰だろうと思い画面を見ると真緒からだった。


「もしもし、どうかした?真緒」

『健一さんどうもっす。今日は健一さんの声が聞けなくて寂しかったので電話してみたっす』


「すまんな、さっきまで仕事してたんだよ。でも安心しろ明日、明後日は真緒と遊べるから楽しもうな」

『ほんとっすか!?嬉しいっす!』


「明日はどこ行きたいとかあるか?」

『そうっすね、お土産は買ったんでホテルから一番近いアドベンチャーパーク行きたいっすね。動物と触れ合えるらしいっすよ』


「動物か…真緒は好きなのか?」

『大好きっすね!手に乗るサイズの小動物は一度飼ってみたい程に好きっすね』


「よし分かった、じゃあ明日はアドベンチャーパークから回って…そうだな体験できる物中心で行こうか。明日の自由時間って夜の何時までいいんだ?」

『夜の二十一時っすね。それまでにホテルに戻っていれば大丈夫っす』


「結構遅くまで行けるんだな。日が落ちるまでは真緒の行きたい所とか行って、夜はイルミネーションが綺麗に見えるから少し近く歩きたいんだけど、どうかな」

『イルミネーションいいっすね!クリスマスの日とかに来たら雰囲気も最高なんすかね』


「クリスマスね、真緒の誕生日だけど来たかったらまた一緒に行こうか」

『来たいっす!約束っすからね!!』


「あはは…」

 

 仕事大丈夫かな…いつもイベントの日が近づくとどさっと入ってくるんだよなぁ。でも、真緒の誕生日か。あれの用意するのも早めが良いかな。


 軽く真緒と寝る前に明日はここに行きたいだの、何食べたいだの色々言い合って。いつの間にか時間は二十二時を回ろうとしていた。


『あ、健一さん…そろそろ切って寝ないとっす』

「もうそんなに経つのか」


『寂しいっすけど明日会えるっすもんね』

「そうだな、じゃあ明日はホテル前まで迎えに行くから。おやすみ真緒」


『おやすみなさい健一さん。大好きっすよ』

「俺も好きだよ」


 その言葉を最後に電話を切り、部屋の電気を消した。布団に入って目を瞑るがなかなか寝付けない。


「ベッドが違うからだろうか…」


 いや理由は分かっている。いつも一緒に寝ている真緒が居ないからなんだろうな。そう思ってしまう俺は案外寂しがり屋なのかもしれない。



*****



「真緒ちゃんどうしたの!?一緒の布団に入って…しかも、抱き着いてくるなんて」

「こうしてないと眠れないっす………いや、涼香じゃダメっすね」


「真緒ちゃん酷くない!?最近私の扱いが雑になってるよ……」

「涼香うるさい…眠れないでしょ」


「明日香ちゃんまで!?」


 涼香はうるさいけどちゃんと寝ないと明日のデートが台無しになる。でも一つ我儘を言うなら、いつもの健一さんの温もりを感じたい。

 あの優しく包み込んでくれる胸の中で…


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回:第44話 健一さんと待ち合わせ場所で


応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る