第40話 健一さんと病み上がり登校

 月曜日、今日も今日とて真緒と抱き合って目が覚める。真緒はテンションが高いのか目が合うとキスをしてきた。


「おはよう真緒、朝一でキスは久しぶりな気がするな」

「熱が下がった気がするので、気兼ねなく出来ると思うと我慢できなかったっす」


「それは良かったよ。一応熱測ったら着替えて置いてくれその間に朝食の用意するから」

「今日はやるっすよ、いや!やらせてくださいっす。健一さんの為に作りたいのを熱で我慢してたんすから」


「そ、そう?わかった、真緒がそこまで言うならお願いしようかな。でも何か手伝える事あったら言ってくれよ」

「じゃあ、抱きしめて欲しいっす。少し強めに」


 料理の事じゃないのかよと突っ込みたくなるが、真緒の要望なら甘んじて受けようと俺は少し強めに抱きしめる。


 すると、「おぉ、強いのもいいっすね」と要望に沿えたのか嬉しそうに感想を述べて始めた。


 真緒の身体は細くてもっと強くしてしまうと痛みを覚える可能性があるから、力加減が難しい。


 そんな朝からスキンシップをした後は洗面所に行き顔を洗ったり歯磨きをしたり、着替え朝食の準備をし始める。


 今日の朝食はワンパントーストという奴で、フライパン一つで出来る食パンのアレンジ料理なのだそうだ。


 今回のはチーズトーストらしく、バターを溶かしたフライパンに溶き卵を流し食パンを一度置きひっくり返す。食パンの両面に卵液が付いたらスライスチーズをのせケチャップの塗る。フライパンの卵が焼けたら、食パンの耳に沿って4つに卵を内側に折り、最後は食パンを半分に折り完成だ。


 真緒は簡単にしているが俺がやると確実に失敗しそうな調理だなと思いながらただ眺めることしか出来ない。


 料理に関しては手伝える事は無いのかもしれないなと自覚させられる瞬間だった。


 朝食の準備が終わると真緒は自分のお昼の弁当の準備をし始める。これも手際が良く5分程度で終わってしまう。


 弁当ってそんな簡単にできるものだっけ?と改めて真緒の料理の腕の速さに驚きを隠せない。


「じゃあ食べましょうか…いただきますっす」

「うん、今日も美味しそうな朝食をありがとな。いただきます」


 俺と真緒は食前を儀式を終えると食べ始める。そして話題はこの後の話になった。


「健一さん、少し我儘行ってもいいっすか?」

「ん?うん、いいぞ」


「一度健一さんに学校まで送り迎えして欲しいっす」

「それって俺が学校まで行くって事か?」


「そうっす、私病み上がりじゃないっすか。なので急に体調を崩すかもしれないわけっすよ」

「まぁ、そうだな。分かった今日だけだぞ?」


「あ、帰りに買い物行くので荷物持ちお願いしたいっす」

「え、いやそれは――」


「健一さんは私に無理はしないで欲しいんすもんね」

「………ん、分かった」


 その言葉を言われてしまうと自分が言った手前引くことは出来ない。正直外に出たくないというのはあるが、真緒がしたいなら仕方ないよな、そう思いながら朝食を二人仲良く食べ終わるのだった。



*****



「真緒恥ずかしくないのか?」

「えへ?私も恥ずかしいっすよ?」


「ニヤニヤしながら言うと説得力無いな」


 俺と真緒は今、学校への通学路を真緒の要望で恋人つなぎをしながら歩いている。たまに俺たちに向ける制服姿の少年少女の視線が痛い。


 もうすぐ学校に着くのだが、真緒は一向に手を放そうとはしないし、逆に握る手の力が強くなっている気がする。逃がさないという事なのだろうか……


 そんな恥ずかしい気持ちの中、校門に着いた。まぁ予想通りと言った所だろうか、真緒は一向にそばを離れることをしない、というか手を離してくれない。


「真緒?このままだと遅刻するぞ?」

「まだ今日してないっすよね」


「え?今日、何かしてなかったか?もしかして忘れ物あったり?」

「健一さん…忘れたんすか?学校に行く時に毎日してることっすよ」


「ま、真緒冗談だよな。ここでしろなんて言わないよな?」

「冗談なんて言わないっすよ?早くしてくださいっす」


 そう言った真緒は人目を憚らず俺に抱き着いて来て顔を上げて目を瞑った。マジかよ…今結構な人が俺たちの事を見ているんだが…


 冷静考えてみれば真緒って顔は普通に可愛いし、たまに告白されると聞いた事がある。そんな学校で言えば人気のある子がある日知らない男に朝から抱き着いているなんて、普通に考えて気になるよな。


 俺も学生の立場であれば、気になるし足を止めるわ。


 でも当事者になるとただただ早く帰りたい気持ちが湧き上がってくる。俺は陽キャって感じの人間じゃ決してない、人からの注目は受けて嬉しいものではないので出来れば避けたい所。


「家に帰ったらしてあげるから、今は…」

「健一さんは私の我儘…聞いてくれるんすよね?」


 そういう真緒は俺が退けないのを分かっているからか、目を開けしてやったという顔で笑みを浮かべてやがる。


「はぁ、後悔しても知らないぞ?」

「健一さんと愛を深める行為に後悔なんてしないっすよ」


「わかったよ、それじゃあするからな」


 俺は真緒の腰に手を当て、逃げられないように強く抱き寄せ唇を重ねる。周りから黄色い声が聞こえて来たり、男子生徒からは嫉妬の目線を向けられている気がして居た堪れない。


 俺は真緒にいつもしているより少し強めにキスをして顔を離し、腰に回していた手の力を抜けると、


「ちょっ、真緒…ん」


 終わった事で気を抜いていると、真緒は首に手を回し強く引き寄せるようにして深いキスをしてくる。


 無理やり気味に絡みませて来る真緒の舌はとても気持ちよく、ここが外である事を忘れそうになるが冷静になって真緒の肩を掴み顔を離すと、俺と真緒の口を結ぶ銀の糸が良く見えると途切れるように消えた。


「真緒…家に帰ったら続きをしような」


 真緒を軽く抱きしめそう言った後、学校の昇降口に身体を向けさせ「行ってらっしゃい!」と背中を軽く押す。


 真緒は少し足り無かったのか、数歩歩いて振り向くと若干頬を膨らませていた。と思ったら次には笑顔になり手を振って「行ってくるっす!」と元気よく言い昇降口の方へ歩いていく。


「早く帰ろ…ん?」


 真緒の背中を見送った後、学校から踵を返すとスマホが振動した。中を見ると、『放課後来てくださいっすね?』と真緒からのメッセージ来ていたのだ。


 そのメッセージに嬉しさを感じる自分は、俺が真緒との時間を楽しいと思っているからだろうなと改めて実感するのだった。



*****



「真緒ちゃん真緒ちゃん朝の噂になってるよ!お兄ちゃんと校門でディープキスは流石にやり過ぎだよ」

「えへへ、朝から幸せっす…」


「き、聞こえてないし…」


 真緒ちゃんはだらしなく顔を歪ませている。ちょっと涎出てるし。

 お兄ちゃんの事になるとこうなるのか…はぁ、真緒ちゃん告白の返事も私に任せてるのにこれから仕事が増えそうで不安だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回:第41話 健一さんに付いて来て欲しい


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