第四章 二人だけの思い出作り

初めての熱と看病

第36話 健一さんからの嬉しいお叱り

 妹と楓先生はあの後、映画を見ると言う事で別れ俺と真緒は帰路につき、翌日。   

 昨日の楓先生が言っていたことがもし本当なら妹は最初から…


「うぅ…寒い…」

「ん?真緒?」


 いつもの如く真緒より早く目が覚まし昨日の事を考えていると、真緒が寒そうに身を震わせながら俺の胸の中で縮こまるようにしている。顔が赤い…


 俺は心配になり真緒の額に手を当ててみると、


「熱いな…」


 最近はテスト勉強で忙しかったり、妹たちと遭遇したりと色々あったから疲れて熱を出したのだろうか。これまで真緒が熱を出したことなんて無いから凄く不安だ。


「まずは、熱を測った方が良いよな」


 誰かの看病なんてしたことが無いから何をすればいいのか分からないが、まず真緒の状況を確認しないといけないと思い、ベッドから出て真緒が整理してくれたゲーム用になっているテレビモニター台の引き出し、医療用になっている所を開いた。


 中はわかりやすく体温計、爪切り、絆創膏、消毒液などが整理されており、体温計を手に取り真緒の下へ戻る。


 ベッドで仰向けになり、魘され苦しそう寝ている真緒を起こさないように脇に体温計を入れ暫くすると、ピーピーという機械音と共に体温が表示された。


「38.3℃か…」


 高熱だ…いつも負担を掛けているからその反動かもしれない。今日は幸いな事に土曜日、仕事もまだ納期は十分にある。


 真緒がもし今日で治らなければ、明日も付きっ切りで看病しよう。


 看病について全く分からない俺は、スマホで調べ真緒が起きるまでに着手する事に。


「水分補給としてスポーツドリンクと、のどの痛い時食欲が無い時用にゼリー、薬はさっき見た時には無かったから買いに行くか。朝食はかぼちゃのポタージュの素があるからそれを用意するとして…冷蔵に何が入ってたっけ?」


 俺は冷蔵庫の中を見て、食材はあるが熱を出しているときに摂取するような食べ物は入っていなかった。あるのはスポーツドリンクくらいか。


 炊事場に移動し、電気ケトルに水を入れお湯を沸かし始める。


「電気ケトルは音が大きい気がするし、真緒が起きないか心配だな。今度保温機能付きの電気ポットにでもしようかな」


 電気ケトルの沸かす音に対して悪態を付きつつも次の作業に移る。

 平均身長の俺から見て首下くらいの冷蔵庫。冷蔵庫の上にあるスープの素置き場からかぼちゃのポタージュの素を手に取り、食器棚からスープカップを出し中に入れていく。


 たまにカボチャのスープが朝食に出てくる事があるが、真緒の出してくれる物はそのままというよりアレンジが加えられているからか深みを感じる味わいがする。


 俺がアレンジをすると確実に変な味になるので、そのままで申し訳ないがこれを出すとしよう。


 真緒を無理に起こすのは違う気がするから、お湯が沸くまで汗拭き用のタオルなどの用意をしパソコンで作業するとファンの音がうるさいと思い、iPadで仕事をすることに。


 ベッドに背中を預けて、少し仕事をしていると、


「ん…け、健一さんどこっすか?」


 真緒が目を覚ましたようだけど、いつもの場所に俺がいない事に不安を感じているのか首を左右に動かしている。


「真緒、此処に居るよ」

「あ、健一さん…けほっ…けほっ」


 俺は立ち上がり、真緒の手を握って自分が近くに居るアピールすると安心したのか俺の名前を呼ぶが、咳をしていて辛そうだ。


「風邪だろうから今日は安静にしてな、ご飯は作るから」

「いや、私が作るっすよ。これくらいなら大丈夫っすから」


 真緒には早く元気になってほしいという意味を込めて、ご飯を作ると言ったのだが、真緒は辛そうにしながら身体を起こし抗議してくる。


「真緒!辛いときくらい俺を頼ってくれ」

「で、でも…」


 ベッドから出ようとする真緒の両肩を掴み、任せてほしくて強く言ってしまう。

 真緒は自分が我慢すれば良いと思っている節がある。でもだからこそ、今回体調を崩しているんだ。いつも真緒に頼り切っている俺が言うのは違うかもしれないが、以前我儘になれと言った言葉を少し勘違いしてるかもしれない。


 病人に説教と言うのは良くないし、俺もしたくは無いが今回ばかりは言わないと。


「真緒、前に俺が我儘になって良い、そう言ったのは覚えてるよな?」

「覚えるっすよ?だから、して欲しい事は我慢せずに言ってるっす」


「それは良いんだ。でももう一つ意味があるんだ」

「もう一つっすか?」


「ああ、それは…無理をしないで欲しいって事。真緒は俺の為に色々してくれるだろ?すごく有難いし嬉しいよ、でもそれで真緒が今回みたいに体調を崩したら不安になるし心配する。俺は真緒が好きだよ、だからもっと俺を頼って欲しいんだ。楽しい事を共有するのも良いけど、辛い事だって1人で抱え込まないで2人で支え合って解決しようよ、俺と真緒はそう言う関係なんだから」


 そう俺が言うと、真緒は一粒の涙を流してしまった。強く言い過ぎただろうか…そう思っていると、


「すみません、泣いちゃって…でも、嬉しいっす」

「嬉しい?」


「私の事を考えて叱ってくれた事が嬉しくて…そうっすよね、我慢するんじゃなくて二人でっすよね」


 真緒は涙を流した後、「ありがとうございますっす」と言って「今日は頼らせてもらうっすね」なんて言うんだから、俺は「毎日頼れって」と言いながら真緒の額に優しくデコピンをすると大袈裟に痛そうに額を抑えて嬉しそうにえへへと顔を歪ませるのだ。


 弱っている真緒を見るのはなんだか心が痛むが、こうやって笑顔の真緒を見ていると安心する。


 朝から真緒とイチャついていると電気ケトルからお湯が沸けた音がした。台所に向かい用意していたスープカップにお湯を入れながら、「早く治ると良いな」そう呟くのだった。


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次回:第37話 健一さんにして欲しいこと


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