第34話 健一さんの恋人
「(じゃあなんで朝、玄関先で抱きしめ合ってキスしてたのかしら?)」
隣に座っている楓先生から耳元でそう囁かれ、俺は動揺してしまう。
どうして知っているんだ?楓先生が言っているのは俺たちが同棲を初めた翌日の事を言っている。真緒には外ですると妹に見つかるかもしれないからとあの日以降部屋の中で、出発10分前から真緒が満足するまでしているというのに。
あの日見ていたのか?もしそうだとしても、今ここでいう必要は無いだろう。何が目的なんだ…
「(ねぇ、羽島先生…この事、涼香ちゃんは知っているのかしら…?今言ってもいい?)」
それだけはまずい、楓先生のしたい事が分からない以上妹が居る場所で話すのはよろしくない。
「(楓先生…場所、変えませんか?)」
「(ふふ、いいわよ)」
「真緒、ちょっと楓先生と話してくるから妹と少し話してて貰えないか?」
俺は立ち上がり、真緒に要望を伝えると少し動揺を見せるが小さく頷いてくれた。
そしてお店から少し離れた場所にあるベンチに二人して腰掛け、単刀直入に聞くことにした。
「何が目的なんです?」
「そうね、簡単に言うと涼香ちゃんから羽島先生の交友関係の調査を依頼されてるの…監視的な?まぁ一番は羽島先生に適当な彼女を作らせないためかな」
「やっぱり、俺には天涯孤独になれって事ですかね。妹に依存させるために」
「それは違うわ…。もし羽島先生の事を涼香ちゃんに依存させたいなら自分自身で行動するもの」
「それは…そうですね」
そこに関しては納得だ。高校時代、俺を依存させるために彼女と友達との関係を妹自身で壊した。
今でも同じなら楓先生を頼る必要はない…か。
じゃあ今の妹の目的は何なんだ?楓先生は何かを知ってるようだが…
「聞きたいんですけど、妹の今の目的って何なんです?」
「目的…涼香ちゃんはね?羽島先生に幸せになってほしいのよ…」
「?ちょっと意味が分からないんですが…」
「気づかない?涼香ちゃんが羽島先生に会わせた子の事」
妹が俺に会わせた子?いつの事を言っているんだ…いや、妹から人を紹介されたのは人生で一度しかない…だってその子は。
「真緒の事ですか?」
*****
「ねぇ、真緒ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんの事どう思ってる?」
涼香は隣でいつもの笑顔で質問してくる。そんな質問されたのは初めてだ。どう思っているか…そんなの決まってる、私は健一さんの事を愛しているのだから。
でも今は言えない、この関係を終わらせたくないし私は嘘が下手だから変なことは言わない方がいいと釘を刺されたことがある。ここは無言を貫くしか…
「私はね、真緒ちゃんならいいと思うんだ」
「え?」
「お兄ちゃんの恋人」
「ふぇっ!?」
どう言う事?健一さんの恋人が私ならいいって…
「どうしてそう思うっすか?」
「ふふ、それはね…私にとって真緒ちゃんが大切な親友だからかな」
涼香は少し微笑むと話し始めた。
「私が真緒ちゃんと親友になりたいと思ったのは、出会ってすぐだったんだよね。人付き合いが得意な子じゃないって分かって最初は話しかけない方が良いかななんて考えてた。けど、他と子と話しても大体嘘ばっかり…見栄を張ったり騙したりで信用できなかったの。でも真緒ちゃんは違った、どこまでもまっすぐで自分の意見をきちんと持っているけど相手に強要はしない。相手の意見を尊重して我慢する時は我慢する、そんな優しい子…これまで表面上の良い子は友達に居たけど、真緒ちゃん程中身も良い子は見たことなかった。それでね?真緒ちゃん学校では友達いないでしょ、いつも私の後ろを付いて来て…これまでも同じような人は居たけど真緒ちゃんは一緒に居て凄く楽しいの。凄く一途で誰よりも私を大切にしてくれて、そんな時にね真緒ちゃんが事故に遭いそうになって…私見てたのに動けなかった。あの日の事今でも悔やんでて…だから、真緒ちゃんの事を助けた人が分かった時に決意したんだ」
「決意…?」
「うん、真緒ちゃんの願いを叶えようって…」
「……」
「『もし叶うなら、あの人にまた会いたい』って真緒ちゃんあの日言ってたよね」
その言葉は…私が健一さんと初めて出会った日の…
もし涼香の言葉を信じるなら、私と健一さんとの再会が偶然じゃないのなら…涼香は。
少し動揺する私だったけど健一さんの過去の話を思い出してふと気になることがあった。
「ねぇ涼香、私の健一さんへの気持ち答えるから、一つ聞いていいっすか?」
「うん」
「健一さんと元カノさんをどうして涼香は別れさせたんすか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次回:第35話 健一さんへの思いと涼香への提案 真緒side
真緒ちゃんの過去編
長めです
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