第31話 健一さんと映画デート

 過ぎ真緒とカフェデートをしてから数日が経ち、テスト最終日。テストは午前中のみでいつもより早く帰宅してくる。真緒は帰ってくるなり昼食を作り一緒に食べ俺が勉強を教える。そんな一週間が今日をもって終わろうとしていた。


「ただいまっす!」

「おかえり真緒、テストはどうだった?」


「頑張ったっす!なのでご褒美が欲しいっす!」


 そう言った真緒は玄関で靴も脱がずに、両手を広げ俺にハグを求めて来る。俺はそれに応えるように真緒の背中に手を回すと、へへっと嬉しそうな声を漏らしながら俺の背中に手を回してきた。


 最近真緒が学校に行く前にハグとキスを求めて来るが、毎日している事なのでこんなのがご褒美でいいのだろうか?俺はそんな疑問を持ってしまい、真緒に質問してみることに。


「なぁ真緒、ハグはいつもしてるだろ?これがご褒美でいいのか?」

「私からしたらご褒美っす。でも健一さんが納得いかないなら、この後デートしませんか?」


「あぁそれは構わないよ。仕事も今さっき終わったところだし」

「じゃあ決まりっすね!お昼食べたら、行くっすよ!」


 急遽真緒とのデートが決まってしまった。何の準備もしていないしそもそも何処に行くかもわからない。事前準備が出来ないというのは不安なものだが、今日は真緒の行きたい所に付いてくことにしよう。


*****


 真緒の作ってくれたお昼を二人して食べ、手を繋ぎ電車に乗って3駅先にあるショッピングモールの映画館に来ていた。なにやら真緒が好きなアニメが映画化したのだとか。俺もアニメはたまに見るのだが、いつも家で見る派なので映画館まで来るのは久しぶりだ。


「真緒どれ見るんだっけ」

「これっす、この作品人気っすけど健一さんは知らないんすか?」


「あーこれ俺も知ってる、いつも家で見れる物しか確認してなかったから知らなかった。これ映画化されてたんだな」

「そうっすよ?テスト期間始まる時に知って見に行きたいなって思ってたんで健一さんと来れて良かったっす」


 そう話しながら券売機で今から見る映画と座席を決めている最中なのだが、平日だからか思ったよりも席が余っている。出来れば上の方の席を取りたいんだが…


「健一さん此処どうっすか?」

「ん?カップルシートか、他の席より少し高いけど…今回はご褒美だし奢ろうか?」


「いや大丈夫っす!ご褒美のハグは貰いました、これは普通にデートなので割り勘にされてくださいっす」

「わかった。でもバイトしてない真緒に負担はかけられないから、奢ってほしいときは言っていいからな?」


「健一さん…私案外お金持ってるんすよ?幼少期から旅館のお手伝いでそれなりに稼いでるっす。口座にもざっと450くらいは入ってるっすね、他にも将来のためにって両親が作ってくれた方にもいくらか…」


 真緒は顎に指で何度か叩き天を仰ぎ見ながら言う。

 え、450って多くね?俺の学生時代そんな額の貯金なかったぞ。


 知らなかった。これまで俺が全面的に出していたから分からなかったが、真緒も学生にしては持っているんだな意外だ。


 それにしても、真緒は付き合いだしてから生活費からデート代まで割り勘を申し出るようになった。まだ学生なのだから甘えてもらってもいいのだけれど、そこは真緒の配慮なのかもしれない。


 そんなことを考えていると、真緒が券売機のパネルを手慣れた手つきで操作し俺と真緒はどれぞれお金を出し合いチケットが出てきた。


 上映までまだ少し時間あるので俺たちは、飲み物でもと買いに来ていた。


「真緒どれ飲みたい?俺はメロンソーダにしようかな」

「私はこの期間限定のライチとマスカットのソーダ気になるんすけど…どっちにしようか迷うっすね」


 真緒は二種類あるドリンクでどちらか選ぶのに熟考しているのか目をつぶり顎に手を添えて悩んでいる。


 真緒は両方飲みたいのだろうか。もしそれなら、


「真緒、俺メロンソーダ辞めるからその期間限定の二種類買おうか」

「え、いいすか?私は嬉しいっすけど、健一さん私に気を遣ってないっすか?」


「いや、俺も飲んでみたかったし大丈夫だよ」


 半分嘘である。俺はあまり冒険に出ない人間なので、期間限定よりも安定の味を求めるのだが真緒が喜んでくれるならいいだろう。ちょっと味、気になってたのもあるし。


「わかったっす!じゃあ次はポップコーンっすね」

「そうだな、真緒はどれがいい?俺は無難に塩かキャラメルかな」


「そうっすね…出来ればこの期間限定の激辛唐辛子味ってのを…」

「真緒今から恋愛物見るんだよね…そういう刺激求めてないから」


 俺は辛いのは普通に行けるのだが、今回見る映画に相応しくない物を選びそうになる真緒に断りを入れ無難に塩とキャラメルのペアセットにした。


 サイズはもともと決まっており、ポップコーンはLサイズでドリンクはMサイズだ。映画を見るときに飲み過ぎると途中からトイレに行きたくなるのでいつもならSサイズだが決められているなら仕方ない。


 奏功していると頼んだものが届き、チケットを店員さんに渡し中へ入る。俺たちが座るカップルシートは最後列にあり、大きなスクリーンの全貌が見れるようになっていた。


 席のある所まで行くと、ふかふかそうなソファの左右には仕切りがあって二人の空間を楽しめるようになっている。足を延ばせるように足置きも設置されて初めて利用するが高級感があってワクワクするな。


 そう感じているのは俺だけでは無いらしく、俺の隣にいた真緒は席がわかると飛び乗るようにして二人分を占領してしまう。俺は飲み物などを持っているから出来ないというのに…少し羨ましい。


 その後は上映時間まで二人で肩を寄せ合って座り少し食べながら雑談を始める。


「健一さん、映画を見た後なんすけど下の階のドーナツ食べに行かないっすか?もうすぐ終わるんすけど期間限定の桜餅ドーナツがあるんすよ」

「いいよ。でも少し気になったんだけど、真緒は期間限定に弱かったり?」


「そうっすね、最初は涼香に付いていく形だったんすけどいつの間にか私も気になりだして…健一さんに会うときは我慢してたんすけど、これからは我慢しなくていいっすからね」

「そうだな、これからは真緒の行きたい所に存分に付き合うから期待しておいて」


 そんな話をしたり、もしかして涼香も来ていたりなんて冗談交じりで話していると劇場内が暗くなる。


 幾つかの予告の後もうすぐ始まるのか場の空気が変わった途端、そっと左手を握って来る感覚があり、俺もその柔らかい手を優しく握り返し静かに映画を見始めるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回:第32話 健一さんとデート中に…

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