第29話 健一さんに知っておいて欲しかった事

 いつもの如く仕事をして、真緒の作り置きしてくれたお昼を食べデートに向かう準備をし再び仕事をしているのだが。


 今日は実質初めてのデートみたいな物だし、失敗はしたくない…と思い。今日行く、カフェについて調べている。


 お店は一週間前に出来たらしく、見た目のかわいいケーキも多くあり、女性客やカップル客が多いそうだ。近くの高校生も通っているのか、写真付きで投稿している物もちらほら。


「真緒と妹が通っている学校の制服の子もいるな…妹に出くわさなければいいが」


 妹も最近は勉強で忙しいのか、ここに来る頻度も目に見えて減っている。となれば大丈夫かな…ていうかあいつ進路どうするんだっけ?まぁどうでもいいや。


 妹の心配をしそうになるが、あいつは優秀なので心配いらないな。真緒は…勉強苦手なんだよな。大学行くのかな?どんな仕事したいとかも聞いていないし…


 今日あたりでも聞いてみるかなと考えているとそろそろ家を出る時間になっていた。パソコンを落とし、スマホと財布をポケットに入れハンカチティッシュも忘れずに家を出る。


 待ち合わせ時間よりも早く着こうと速足になるがすぐに疲れて、歩き始める。


 情けないなと自分で思いながら駅前まで到着した。


 待ち合わせよりも一五分早く来てしまい、真緒の姿は辺りを見回したが見つからない。失敗できないという焦りを鎮めるために近くのベンチで小休憩。


 この時間に駅前に来ることはまずないのでどんな人が居るのか見てみると、スーツを着た人も見えるが時間帯が学校帰りの事もあり高校生が多い。


 真緒の通っている高校の制服を着た人もいるからもう少しかなと、真緒に着いたことを連絡しようとスマホを取り出したところ、今朝も聞いた俺の好きな声が聞こえ顔を上げるとそこには笑顔の真緒が居た。


「健一さん、お待たせしましたっす」

「いやいや、全然待ってないよ」


「そうっすか?少し汗かいてるように見えるっすけど。息切らしてないっすよね」

「あぁ、まぁ少し前に来てたかな。ちょっと楽しみで…」


「ふふ、健一さんも一緒っすか、私も楽しみだったんすよ」


 真緒に少しでもカッコつけようとしたが、お見通しのようですぐにバレてしまった。いつも一緒に居るのだから当然なのだが、少しくらいは見栄を張りたい。


「健一さん、早くいかないと!タルト無くなっちゃうっす!」

「真緒、そんな急がなくても…」


 座って休憩したのに、真緒に手を引かれ急かされてしまう。このままだと到着する前にバテてしまう気がして、


「真緒、目的地に向かう間も楽しみの一つだと思うんだよね」

「それもそうっすね。じゃあ、ゆっくり行くっすか」


 俺の機転が利いたのか手を繋ぎゆっくりと目的地へと向かう。


 はぁ、到着して地面に倒れこむ彼氏とか幻滅もんだよな、それだけは回避できて良かったと心の中で安堵の息をこぼすのだった。


*****

 

 俺と真緒はカフェに向かう道中、この後の予定などを話していた。


「まだテスト前なんでカフェの後は帰りたいっすね」

「わかった、分からない所あればいつでも言ってくれよ」


「頼りにしてるっすよ!」

「うん。ああ、そういえば真緒って進路どうするか考えてるのか?」


「進路っすか?健一さんの奥さんですよ?永久就職っす」

「嬉しいけど、今はそれじゃない…真緒も高三だろ?そろそろ決めないとだしさ」


「あーそれなら大丈夫っすよ。旅館の手伝いするって事で話し通してるすから」

「旅館って実家の?継ぐのやめたんじゃ無かったっけ」


「継ぎはしないっす、瑠々華に任せつつ裏方っすね。厨房や雑用をして接客は瑠々華に全部丸投げ、やってたことは前と変わらないっすし給料も出るっていうんすからやらなきゃ損じゃないっすか」

「もしかして真緒、接客が嫌で継ぐのやめたのか?」


「そうっすよ?私、家族と涼香、健一さんとしかまともに話せないっすから」


 あぁなんとなく真緒に友達が少ない理由わかった気がした。でもいじめとかじゃなかっただけ喜んで置くべきかな。


 いやでもこの真緒だぞ?俺といる時は物静かとはかけ離れてる子だぞ?でも真緒の両親が率先して結婚の話をしていたのって、真緒のコミュ障が原因だったりとか?いやいやそんなことはないはず…


 でも待てよ、冷静に考えろ?前に真緒がナンパに会っていたことあったよな。接客が出来る人なら難なくあしらってそうだし、真緒って俺の知らないところでは全然喋らない子なのか…?じゃあどうやって妹と仲良くなったんだ?なんで俺とは普通に話せるんだ?疑問が次々と湧き出てきて一向に整理がつかない。


 俺が真緒の性格に関して熟考していると、隣の真緒が言い忘れてたっけと言った後質問を投げな掛けて来た。


「あれ健一さんに私がコミュ障なの言って無かったっすか?」

「あぁ、聞いてなかったな。結構ひどいのか?」


「自分で言うのもあれなんすけど、中学の時一年誰とも話さなかったことあるっす」

「それはひどいな、でもまぁ俺とは話せてるし問題ないか…就職困りそうだけど」


 あぁだからか、旅館の手伝いをするっていうのは苦手な接客をしない前提の話なのか、なるほど納得。


 でも意外だったな、真緒が人と話すのが苦手だったなんて。家族や俺の前では気さくに話してたからてっきり得意なのかと…真緒の弱点を知って申し訳ない気もするが嬉しいというのもあるな。


 これからはそう言う真緒の弱いところも知って行けたらな。そう思っていると隣から不安そうな声が飛んできた。


「幻滅したっすか?」

「ん?いや逆だよ、真緒の事が少し知れて嬉しいかな。これまでは俺の事ばかりだったからさ、これからは真緒の事も教えてくれないか?」


「わかったっす!あと凄く嬉しいっすね。あまり人に話せない事だったんすけど……

健一さんには知っておいて欲しかったっすから」


 真緒は何か吹っ切れたような顔をしていたが、少し不安交じりな表情をしているようにも見えた。


「真緒…よし!今日は俺の奢りだ。いつものお礼だと思って好きもの頼んで良いぞ」

「いいんすか!?じゃあお言葉に甘えるっす!」


 そう言った真緒は先ほどまでの表情とは打って変わってぱあっ明るい笑顔を見せてくれ、握っていた手に少し力が入ったのがわかった。


 デートだというのに暗い雰囲気になるのも良くないだろうし、今日は純粋に真緒に楽しんで貰いたいからな。


 財布に少し多めに入れておいて良かったと今更だが思い始めるのだった。


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次回:第30話 健一さんとペアネックレス

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