第27話 健一さんともう一度あの場所で

 俺は真緒の荷造りの為に再び真緒のご実家にお邪魔させてもらうことに。旅館に着くとご両親から同棲について話がありますと呼び出され、応接室へ向かうと。ご丁寧に「娘をよろしくお願いします」と頭を下げてられてしまい、こういうのに慣れていない俺は隣にいる真緒に苦笑されながらもご両親に真緒を預からせていただく旨を伝えるとすごく喜んでいた。


 流石に真緒もここまで喜ばれるとは思っていなかったのか、少し恥ずかしそうにしていて、次にまたご挨拶するのは結婚の話をする時かなと考えていると、昼食の話に変わった。


 お昼は瑠々華ちゃんも一緒にと提案したのだが、お二人で楽しんでくださいと言われお言葉に甘えることに。その後は真緒の嬉しいときに良くいくと言っていたあの場所へと向かった。


 雲一つない青空と頬に伝う心地よい風。滝と木の揺れる自然音がとても気持ちよく呼吸をしているだけで心が休まる気がしてくる。真緒がこの場所を好きな理由が少しわかった気がする。


「真緒の作るものは何でも美味しいな」

「えへへ、健一さんへの愛がこもってるっすからね?当然っすよ」


 そう言った真緒は自慢げにそして嬉しそうに笑いながら、返事をしてくれる。今日の昼食はおにぎり三種類。鮭と昆布、梅でどれもちょうどいい塩加減で美味しい。


「健一さんはいつも美味しそうに私の作った物を食べてくれるっすよね。私、美味しそうに食べる健一さんの事が大好きっす」

「俺もいつも美味しいご飯を作ってくれる真緒が好きだよ」


 俺のその言葉に真緒はえへへと嬉しいそうなこれを漏らし、昼食を食べ続け完食した。真緒の作るおにぎりはとてもうまい、具から作っているのか市販で売られている物とは味が根本的に違う。こんなの食べたらコンビニのおにぎりは買えないな。


 自然を楽しみ真緒のおにぎりの余韻に浸っていると、隣に座っている真緒に声を掛けられた。


「健一さん、帰る前にあの日みたいにまたしないっすか?」


 隣で肩が触れ合う距離で真緒は上目ずかいでそんなことを言ってくる。

 あの日、それは前に一度ここに来た時にしたキスの事だろうか。今日から俺の部屋で一緒に住むのだからここに来る機会も減ってくる、思い出としてしておきたいという事かもしれない。もちろん俺の回答は決まっている。


「あぁ、しようか」

「はいっす」


 そう言った真緒は俺の首裏に手を回し、口を少し開き舌が見えるように俺の事を待っていた。これは、最初から濃厚な方のキスを求めていると言う事なのだろうか。


 いつも真緒からしてくれるので俺からと言うのは中々な勇気が居る。だが、こんな所でへたれていては真緒のしたい事を叶えるなんて出来やしない。


 俺は意を決して真緒の細い腰に手を回し、その少し出た舌に絡ませるように顔を持っていく。先ほどまで食べていた梅の味かな?少し酸味のある味と真緒の吐息を感じる。


 暫く続けると、真緒はもっと欲しいのか強く舌を絡ませて来て、俺もそれに答えるように真緒を味わう。首に回された手の力が少し強くなり、真緒との距離も縮まっていく。


 真緒は片手を俺の胸へと持ってきて、これはもう此処でしてしまうかもしれない…野外と言うことになるが、人は滅多に来ない場所だと思っていいんだよな?


 そう思い俺も片手で真緒の服の中に手を入れ滑らせるように胸へと手を伸ばそうとした時だった。


ガサッ


 左の茂みから何かが動く音がして、俺と真緒はキスを辞め音がした方へと視線を向けると…


「…瑠々華?」


 そこには、茂みに隠れて顔を両手で隠しながらこちらを見ている瑠々華ちゃんの姿があった。見られていたのか…なんか前回も見ていたとか言ってた気がするけど…


「あ、えっと…今から、その…始めるなら私はこの茂みから見てるのでお気になさらず…」

「「いや、気にするよ!(気にするっす!)」」


 俺と真緒は大きな声でツッコミ入れ、今までのすべてが見られていたと思うと恥ずかしくなり、真緒と目が合わせずらい…


 しかも真緒に関しては妹に見られていたことになるし、相当恥ずかしいだろう。


 姿勢と乱れた服を直して、しばらく沈黙が流れた後真緒が立ち上がり「か、帰るっすよ」と恥ずかしそう顔を赤らめながら、手を差し出してきた。


 俺もこの状況は居た堪れないので素直に真緒の手を握り旅館へと戻るの事に。


 その間瑠々華ちゃんは少し離れた所から俺たちの後を付けていたようだったけど、仕事そっちのけで来ていたらしく、両親に怒られているのを旅館を出るときに見かけるのだった。


「瑠々華も年頃っすからね」

「あはは、なんか真緒の家族って感じするよ」


 そんな冗談交じりの会話をしながら俺と真緒はこれから一緒に住む家へと帰るのだった。

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