第23話 お兄さんはやっぱりカッコいい
一緒にお風呂に入って、一緒に寝た翌日の朝。今日も真緒は俺より起きるのが遅かった。最近夜更かしでもしているのだろうか?お肌に良くないからと注意した方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、旅館の朝食を真緒と楽しんでいる。朝食はご飯とみそ汁に漬物に焼き魚に…と普段あまり真緒が作らない和食だった。少し新鮮味を感じながら朝食を食べ終わるが、普段結構食べる俺と真緒は満足できないでいると。
まだ物足りないっすねと真緒が言って考えるそぶりをした後、ハッ!何か思い立ったのか真緒を見ていると『ちょっと何か作ってくるっす!』と言って部屋から出て行ってしまった。
急なことで驚きはしたが、よくよく考えるとここは真緒のご実家ということで厨房に行って何かを作ってきてくれるのだろう。
真緒の事だし、10分くらいで戻ってくると仮定して俺は少しだけ仕事を進めることに。
「今日のお出かけは中止だな」
窓の外をちらっ見ると雨が強く降っている。たまにガタガタと窓が揺れるのを見ると風も強いのだとわかるから今日は部屋で大人しくしているしか無さそうだ。
「それにしても真緒遅くないか?もう20分は経っているのに」
真緒の手際の良さを考えるにこれほど時間は掛からないはず、何かあったのだろうかと部屋を出て廊下を歩いていた。
他のお客様の迷惑にならないように歩き、出来るだけ速足で。厨房まで一番離れている部屋を使わせて貰っているため少々時間が掛かる。角を曲がればもうすぐでという所で二人の男と女の子の声が聞こえてきた。
「ねぇ、そこの君さ一人?お盆持っているけど浴衣来てるってことは客だよね」
「あ、えっと…その…」
「今暇してたんだよね、俺たち二人とこの後遊ぼうよ、ね?」
ナンパだろうか、ガラの悪い金髪の男が二人誰かを囲むようにしていた。今はそんなことよりも真緒を…ん?さっきの声って、あとお盆ってことは…
俺は男二人の背中に隠れて見えなかった女の子の方へ目を向けると、そこには縮こまり俯いている真緒の姿があった。
なかなか戻ってこないと思ったらこういう事だったのか、俺は深いため息を吐きながら男性二人に近づき一人の男の肩に手を置いた。
「あの、俺の彼女に何か用事でしょうか?」
「彼女?ちっ、なんだ男がいたのかよ、拓也撤収するぞ」
「え、もういいの?諦め早くないか?」
「男がいるなら、仕方ねぇだろ!」
そう言って彼らは真緒から離れると足早にどこかへ行ってしまった。俺は彼らが見えなくなった頃合いで真緒へと視線を送ると、涙目になりながら身体を震わせている。
「お、お兄さん…ありがとうございますっす」
真緒の声は震えていて、相当怖かったのだろうと窺える。俺は怖い思いをさせてしまった事に申し訳なさを感じお盆を持った真緒を優しく抱きしめた。すると真緒も安心したのか震えていた身体は治まり口許が緩んだのが見える。俺も何事も無かったことに対し胸をなでおろした。
「お兄さんはやっぱりカッコいいっすね」
「あはは、ちょっとは彼氏っぽいこと出来たかな」
頑張って取り繕いではいるが内心ひやひや、いつもだらしない姿を見せているから多少はいいところを見せる事が出来てよかった。
「じゃあ戻るか」
「あ…」
そう俺は言い抱きしめていた真緒から離れようとすると寂しそうな声を上げたので固まってしまった。俺はこういう時にどうすれば正解なのかわからないなと考えていると、チュッと言う音と頬に柔らかい感触を感じた。
突然のことに戸惑い感触の合った場所に手を置き一歩後ろに下がってしまう。
真緒の顔を見ると少し顔を赤らめはみかみながら、
「助けれくれたお礼っす」
そう言って先に部屋の方へ歩いてしまう。
「不意打ちはずるいって」
俺の顔に熱を感じながら真緒の後ろを追いかけるように歩き出したのだった。
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