第21話 お兄さんの敵対心と私の対抗心
無事真緒のご両親との挨拶も終え、なぜか結婚の許可も貰ってしまったが何事も無く終わった事に今は安堵するしかない。これから真緒との結婚は避ける事が出来なくなったということで嬉しい反面、妹にどう説明をしたものかと頭を抱えながら今は今日泊まる旅館の部屋にある広縁で椅子に座り外の景色を眺めていた。
一面木で覆われており、秋になると紅葉が楽しめるのだとかで次は秋にでも来てみてもいいかもしれない。ここの部屋は旅館の裏側一階にあり、先ほど真緒に連れられたあの綺麗な場所も見えるはずなのだが木々によって滝すらも見えない。つまりあそこは知る人ぞ知る名所なのかもしれない、いい場所を教えてもらったな。
ぼけーっと景色を眺めているとご両親に呼ばれて少し出ていた真緒が部屋にやってきた。バスケットを持っていないので家に戻しにいっていたのかもしれない。
「お兄さん身体大丈夫っすか?トレーニング行けるっすか?」
「いや遠慮しておくよ、脚ガクガクだわ」
「情けないっすね、でも今日は私もゆっくりしたいので明日に予定変更っすね」
「助かるわぁ、今から運動したら明日は動けそうにないし」
俺がそう言うと真緒は苦笑し、正面の椅子に座った。特に話すことも無くただただ景色を眺めながらゆったりとした時間を二人で過ごしていると何かを思い出しように
「あ、お兄さん明日何したいっすか?」
「明日?日曜日か、特にやる事無いから仕事かな。真緒はしたい事あるのか?」
「あるっす!お兄さんとお出かけしてみたいっす!いつも部屋の中ばかりだったのでたまにはいいかなって…どうっすか?」
「いいな、それ」
普段は妹にばれないようにと俺の部屋でのみ行動を共にしていたのだが、結構離れているしここならバレるリスクも限りなく低い事から快諾した。
出来る事なら真緒の希望には沿いたいものだし、付き合ったのだから思い出だってたくさん作りたい。真緒の笑顔を見れるのなら俺は妹を敵に回てしてもいいかもと少しだけ思ってしまった。
妹への敵対心を高めている俺とは打って変わって、真緒は明日の計画を立て始めようとしている。
「まずお兄さん、朝ご飯食べた後はちょっと近くをぶらぶらして見たいお店があれば入ってみたいっす。食べ歩きしたり、写真撮ってみたり…お昼はどうするっすかね」
「うーん、折角だし外で食べるか。近くでいい店知ってるか?」
「知らないっすね。友達いないっすからこの辺りは本当に通学路って感じっすね」
そういった真緒の表情は少しだけ引きつっているようにも見てた。何かあるのかもしれないが、今は旅行を楽しんで貰わなくては!そう話題を変えようとしたのだが、不意に俺のスマホが鳴り始めた。電話だ…まぁ誰からなんてわかっている。
真緒に断りを入れてスマホに手を伸ばす。
「もしもし?」
『もーお兄ちゃん出るの遅い!』
10秒くらいで出たんだが?そんなことを言ってしまっては話が長くなるのは目に見えているので、言わないが。
「要件をいえ、妹よ」
『いつ帰ってくるか聞いてなくて、あとお土産リクエストしようと思って』
あーお土産。そんなこと言ってたっけ、忘れるところだったな。
「月曜日だ。で何が欲しいんだ?物か、食い物か」
『お兄ちゃんが欲しいです♡』
「要らないって事だな、承知した!」
俺は勢いよく妹との通話を切り、真緒の方を見ると頬を若干赤く染めもじもじしながら俺をチラチラ見てこう言ってきた。
「私もお兄さんが欲しいっす…」
「よし来い!」
俺が即答し、両手を広げると真緒は俺に抱き着いてきた。目に見えてスキンシップが増えてきたな…妹に負けないくらいに。もしかして対抗心か?
そんなことを考えながら、真緒を優しく抱きしめた後は夕食の時間まで俺の足の間に座り談笑したのだった。
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