第19話 お兄さんを連れてきた

 小休憩を済ませ少し歩くと山に入る小道を真緒と進み抜けた先、自然に中に綺麗に溶け込んだ大きな旅館が見えてきた。


「ここが真緒の実家か…想像より大きいな」

「そうっすか?子供のころから見てるっすから、気にしたことないっすね」


 小さいころから見ていると気にならない物なのだろうかと考えながら門を潜り、中へ入ると木の香りのような落ち着く雰囲気に包まれる。


「この匂い、帰ってきたって感じするっす~」

「なんか落ち着く香りだな」


 長年引きこもりしてるからか自然の香りを嗅ぐと改めて外出してるんだなと実感させられる。たまには外に出るのもいいかもしれないな。

 自然の香りを堪能しながら俺と真緒は無事旅館内に入り受付をしているのだが、


「帰ったっすよー瑠々華!」

「おかえりなさないお姉ちゃん。えっと、それで…お隣にいる方はもしかして?」


「そ!なかなか困難だったすけどやっと捕まえたんで連れて来たっす」

「真緒、俺を伝説のポケ〇ンみたいに紹介するのやめて?」


 俺と真緒のいつものコントをしていると受付に居た女の子が俺に身体を向け改まった感じで口を開いた。


「えっと…初めまして、真緒姉さんの妹の瑠々華るるかと申します。今日はお越しいただきありがとうございます。すぐにお部屋の用意をさせていただきますの少々お待ちください」


「え、あ、はい。お願いします」

「瑠々華ーお仕事頑張ってるっすねー。お姉ちゃん感心しちゃうっすよ」


 受付をしてくれたのがなんと真緒の妹の瑠々華ちゃんだったのだ。落ち着いた雰囲気で真緒とは正反対だなというのが第一印象。


 身長は平均の真緒より少し低いが大人びて見える。

 着物を着ているのにも関わらずでかいとわかる胸。

 顔も綺麗と言えるほどに整っていて。

 身体は華奢というよりも、しっかり筋肉がついているように見えるから旅館のお仕事は結構肉体労働なのかもな。

 髪は腰辺りまで伸ばした黒髪のロング、艶やかでさらさらしているのを見ると丁寧に整えられているのがわかる。真緒はドライヤーをせずに寝ることもあるので育ちの良さがわかってしまうな。


「真緒は瑠々華ちゃんを見習った方がいいんじゃないのか?」

「は?なんすか、お兄さん喧嘩売ってるんすか?瑠々華見た目だけで家事全然できないっすよ?この前も塩と砂糖間違えたっすし、掃除だって――」


「お、お姉ちゃん!?言わないでよ恥ずかしいんだから!それを言うならお姉ちゃんだってお兄さんの事話すとき、だらしなく涎垂らしたりにやにやしながらぼっーとすることあるじゃん!」

「瑠々華もやる気っすか!?受けて立つっすよ!」


「俺のせいで…すまん」

 

 俺のちょっとした発言でカウンターを挟んで姉妹喧嘩が始まってしまった。

 喧嘩するほど仲がいいというから口喧嘩くらいならと見守っていると、後ろから話しかけて来る声が聞こえてきた。


「あの、もしかして羽島 健一郎さんでしょうか?」

「え、はいそうですけど。そちらは…」


「お初にお目にかかります、わたくし真緒の母の安達 春香はるかと申します。急な来訪でしたのでゆっくりお話しするのはお昼過ぎになると思いますが、それまで真緒の事をよろしくお願いいたします」


「あ、はいこちらこそ…」


 話しかけてきたのは真緒のお母さんだった。綺麗な顔立ちで真緒も瑠々華ちゃんもお母さん似なのがすぐに分かる。

 厳しいとは程遠い優しそうな雰囲気で瑠々華ちゃんのお母さんというと納得がいってしまう。

 だがそうなると真緒の性格はお父さん似なのかな?

 そんなことを考えていると姉妹喧嘩が終わったのか真緒がいつの間にか俺の隣に立っていた。


「あ、お母さん2日ぶりっす。お兄さん彼氏にしたんで連れて着たっす」

「あら、そうなの?昨日の電話から何があったのかしら…あーそうねナニがあったのかしらね」


 なんで2回言ったんだろう…そこには突っ込まないでいいとして、改めてご挨拶をして少しお話をすると、ゆっくりご両親とお話しする時間はお昼の1時頃からということに決まった。


 予定としては今から旅館の周りを真緒と散歩をして昼食を取ったのちご挨拶をして、トレーニング。汗をかくかもだというので一度お風呂に入り少し部屋で自由時間、夕食の後に露天風呂、その後は真緒と寝るだけだそうだ。

 

 明日は真緒もお休みなのでゆっくりできるかもな。

 そんなことを考えながらぼっーとロビー脇の待合スペースで小休止していると、真緒が制服から着替えて戻ってきたみたいだ。


 真緒はグレーのパーカーにデニムのショートパンツ、白いスニーカーに朝作っていたサンドイッチの入ったバスケットを手に持っていた。動きやすさを重視しているのだろうか普段俺の部屋に居るときは制服か、パジャマしか見ないので新鮮だな。

 少し見惚れていると、真緒は少し首を傾けながら話しかけてきた。


「お兄さんどうしたんすか?早くいかないと食べる時間無くなるっすよ?」

「あ、あぁそうだな。私服の真緒を見るの初めてだったからちょっと新鮮で…」


「ほぅ、どうっすか?似合ってるすか?」

「うん、似合ってるよ。なんか真緒らしいっていうか、正直可愛いよ」


「えへへ、嬉しいっす」


 そういった真緒は少しはにかみながら左手をこちらに伸ばしてくる。俺はその小さくて柔らかい手を握り旅館の外に足を運ぶのだった。

 真緒は余程嬉しかったのか軽いスキップをしているように見え、可愛いななんて言葉がまた出そうになる。


 そんな真緒の姿を見ていると今の関係になれて、改めてよかったなと思う。

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