第15話 お兄さんの変わり始めた気持ち

 なにやら身体を締め付ける感覚に違和感を感じ、霞む目を少し開くとなぜか俺に抱き着いた状態の真緒がすぅすぅと規則正しい寝息を立てながら可愛い寝顔で寝ていた。


「珍しいな俺が先に起きるのは……それにしても寝顔可愛いな」


 そう言いながら真緒の頬を手の甲で優しく撫で、唇に目が止まる。

 今思い出したが俺たちは昨日キスをしたんだっけか、まぁ今までとそう変わらないだろうけど、真緒が彼女か…あまり実感がわかない。毎日一緒にいる時間が多かったからなのだろうか。


「今、妹にばれてしまったらどうなるだろう…」


 もし、真緒が俺と離れないといけなくなったらどんな顔をするかな…泣いてしまうだろうか、離れたくないと言ってくれるだろうか。


「言ってくれたら嬉しいだろうな」


 前に付き合っていた彼女と別れた時は怯えるだけで離れたくないなんて言わなかった。だが、なぜだろうか真緒は離れたくないと言ってくれる気がする、それだけはどうしてか自信がある。

 

 この1年真緒とずっと過ごしてきて何度好きって言ってもらったか思い出そうとしても数え切れないほど言われた、それだけ真緒は俺の事を思ってくれている。


「なのに俺は昨日の一回のみって、それは真緒に対して失礼じゃないのか?」


 俺も変わらないといけないのかもしれない、真緒が昨日俺に言ってくれたように。いつ離れてしまうかわからないからこそ伝えられる事は伝えておくべきだろう。いつか本当に離れたくないって言ってもらえるように…今日から。


「……ん、お兄さん…」

「起きたのか?」


 俺が独り言を言っていたからだろうか真緒が眠い目をこすりながら俺の事を呼んできた。

 寝起きの真緒を見るのは初めてだが、こんなに近くで見るとやっぱり可愛いな。


「おはようっすお兄さん。今何時っすか?」

「んー、7時だな」


「マジっすか、ご飯作らないといけないっすね」


 枕元に置いておいたスマホで時間を確認し伝えるといつもより一時間程遅い時間になっていた。まぁ昨日は少し夜更かししちゃったから仕方ないが。


「そんな慌てなくてもいいんじゃないのか?今日は休日だろ」

「それもそうっすね、今はお兄さんの温もりを感じていたいっす」


 寝起きだというのにそういうことを言ってくる真緒に俺は少し照れてしまう。でも、真緒の言っていることも分からなくはない。俺も、もう少し真緒の温もりを感じていたい気がして優しく抱きしめた。


「っ!お兄さん、積極的っすね。私は嬉しいっすけど」

 すると真緒は幸せそうに目を細めながら笑った。


「まぁな、1年待たせたんだからこれくらいはしないと真緒に申し訳ないだろ?」


「そうっすね、じゃあ毎日こうして抱きしめて欲しいっす。ダメっすか?」

「いや、いいぞ。俺にできる事ならなんだって…」


 そう俺にできる事なら、なんだってしてあげたい。1年も待たせたという引け目を感じているのもそうだが、昨日の真緒の不安そうな顔より今の顔の方がいい。真緒にはいつも笑っていて欲しい、そう思うのは悪いことじゃないはずだ。


「お兄さん、今日はご飯食べたら私帰るっすけど」

「あぁ」


 この後ご飯を済ませた後は真緒は帰ってしまう。少し寂しさを感じるけど、いつもの事だから大丈夫。また近いうちに帰って来るのだから不安に思うことはない。

 そんな真緒に会えない時間の事を考えていると真緒から驚きの言葉が飛んできた。


「一緒に来ないっすか?」

「え、一緒って…真緒の実家にか?」


「そうっすよ、親にも紹介したいっすから。ちょっとした旅行だと思ってくださいっす」

「まぁ、それはいいんだがこんな急に押しかけて迷惑じゃないのか?」


 向こうの都合を考えるなら急に来ることになるよりも事前に予約を入れてからの方がいいのではないだろうか?急な事に緊張して怖気づいているわけじゃないからな?いや、ちょっと緊張するけど…


「それは大丈夫っす、特別なお客さん用の客間があるっすし、それに今の時期はそんなにお客さん多くないっすから急に行っても大丈夫っすよ」

「本当にか…?」


「なんすか、親に会うの緊張してるんすか?」

「いや、まぁそうだけど」


 緊張しないなんて言えないだろ?彼女の親と顔合わせとかしたことないし緊張しない方がおかしい。


「安心してくださいっす。みんな優しい人っすから――あっ、お父さんはやばいかもっす」

「急に不安になったんだけど!?」


 そんなこんなで今日はご飯後に旅行兼、真緒のご両親と顔合わせをすることに…

 のちに「さっきの冗談っすよ」と笑いながら言われたがにわかには信じがたい。

 どうなってしまうんだろうか、今から冷汗が止まらない俺なのでした。

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