第8話 お兄さんと散髪②

 髪を真緒に切ってもらうために今は風呂場で上半身裸の状態で椅子に座って、真緒の準備を待っている。すると、散髪ばさみとすきばさみ、クリップにコームとセルフカットセットを手に真緒が風呂場に入ってきた。


「お兄さん準備できましたっす!それじゃあ始めるっすけど、希望とかあるっすか?」

「いや特にないかな、真緒の好みで頼む」


「そうすね、お兄さんの顔だと短めに切って整えるか、ツーブロにして刈り――」


 俺の髪を触りながらぶつぶつ一人で言い始めたので黙って待つことに。それにしても真緒に髪をこうやって触られるのは初めてかもな、なんか新鮮…


「お兄さん決まりました!んじゃやるっすよ」


 そういうとクリップで止めたり、コームで跳ねた髪整えたりして切り始めた。


 シャキッシャキッという切れ味のいいハサミの擦れる音が風呂場に響き渡る。


「真緒結構手馴れてるな」

「そりゃ妹によくやってたっすからね」


「妹なぁ…真緒の妹どんな感じの子なんだ?」

「元気で人当たりもいい感じっすね、私とは大違いというか」


「そうなのか?真緒は結構話しやすいけど」

「お兄さんと涼香の前だけっすよ」

 

 真緒はあまり人付き合いが得意ではないのかもな、前に妹も言っていた『私以外の子と話してるの見たことない』って、まぁ追及しても仕方ないか。話を変えよう、


「ふーん、それより真緒は旅館の元跡取りって言ってたけど今はもう手伝わなくていいのか?毎日のように部屋来てるけど」

「うーん、大丈夫なんじゃないっすか?妹の瑠々華るるかに全部任せたっすけど、この前話したときは『全然余裕だぜ!』て言ってたっすよ」


「妹に全部任せるって真緒は無責任な姉だな」

「むぅ、お兄さんには言われてたくないっす。家事とか全部私に任せてるの忘れたんすか?」


 真緒は少し頬を膨らませハサミを持っていない手で俺の耳たぶ痛くならない程度に引っ張ってきた。気に障ったのだろうか、それならほんとすまん。


「いや申し訳ない、ついつい真緒が優しいから甘えちゃうんだよな」

「ふぅん、そっすか…まぁお兄さんに甘えてもらうのは嫌いじゃないんでいいすけど、ふふ」


 何とか機嫌を戻してくれたみたいだ。やっぱりお姉ちゃんなんだな甘えてもらうと嬉しくなるのは下の子を持つ人にしか分からないものがあるよな。


 そんな他愛もない話をしていると、だいぶ髪もすっきりしてきた。あとは全体のバランスを見たり眉毛整えてもらったり、ほんと至れり尽くせりだな。


「終わったっす!どうすか?私的には良くなったんじゃないすか?顔以外は」

「お前俺の顔に不満でもあるのか!?いやまぁ、いいんじゃないか?結構すっきりしててなんだか軽くなった気がするし」


「喜んでもらえたならよかったっす。じゃあ後はシャワーで洗い流すっすね」


 ジャーと暖かいお湯が頭にかかり軽く真緒が洗ってくれた。優しく撫でるように触る真緒の手はとても安心するものがある。


 その後は風呂の時間も近かった為、体も洗うと言って真緒にはご飯の用意をしてもらい、髪を乾かし部屋に戻った。


「ふぅ、さっぱりしたわ。真緒が切ってくれたおかげで髪を乾かすのも楽だな」

「喜んでもらえてうれしいっす!それよりご飯できたっすよ」


 そういうとテーブルの上には既に料理が並んでいた。ご飯を食べながら、髪の話をしていると、


「髪の毛はすぐ伸びるっすから、月1くらいの頻度で切った方がいいらしいっすよ。てことで来月も切らせてらうっすね」


 その日を境に毎月のように切らせろと懇願してくる真緒を今の俺はまだ知らないのだった…

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