第7話 お兄さんと散髪①

 夕方。今日もいつも通り仕事をしていると鍵を開ける音と扉の開閉の音がする。真緒が学校から帰ってきたようだ。


「ただいまっすー」

「んー、おかえり」


 挨拶後、毎度のことながら買い物袋をもって冷蔵庫の下に今日買ってきたものをしまい終えると、真緒がこちらを振り返り俺の方をジーっと眺めていた。


「どうした?俺の顔じっと見て、見惚れてるのか?」

「そういうのは鏡を見てから言ってくださいっす」


「だいぶひどいこと言ってないか真緒…。まぁ、そんなことよりどうしたんだ?」

 真緒の辛辣な一言に少しながらダメージを受けつつ、見ている理由を聞くことに。


「前々から気になってたんすけどお兄さん髪切りに行かないんすか?」

「髪?まぁ結構伸びてきてはいるよな。でも家から出たくないからな」


「うわぁ、生粋の引きこもりじゃないすか…」

「うわぁとか言うな!あと露骨に引いたような顔をするんじゃない!傷つくぞ!?」

 またもや、ダメージを受けてしまい俺のライフはもう残り僅か…。


「まぁそれは置いといて、その髪いつ切るんすか?」

「今のところは決まってないかな」


「じゃあ、私が切ってあげるっすよ!」


 真緒は切る予定がないと知ると待ってました!と言わんばかりに声を上げて両手でハサミを作りチョキチョキしていた。うーん、真緒は手先は器用だが不安でしかない。やけに自信ありげに話すがそもそも経験があるのかも気になるところ…


「えぇ、真緒人の髪切ったことあるのか?そこが不安なんだが…」

「安心してくださいっす!1年のブランクあるっすけど妹の髪をよく切ってたっす」


「いや、その1年のブランク怖いんだが!?耳とか切ったりしない?」


 俺はその後危機を感じ、断ろうとするのだが半ば強引に散髪が確定した。まぁ、家から出なくて済むのならお金もかからないし助かるが、このままだと真緒にしてもらってばっかりだな今度なにかお礼しないとな。


 髪を切る為にお風呂場に行くのだが、何か欲しいものとかあればその前に聞いておこう。


「なぁ真緒、何か欲しいものとかあったりするか?日頃の感謝したいんだが」

「うーん、そうっすね…じゃあ旅行行ってみたいっすお兄さんと二人で!」


「旅行か、いいかもな。行きたいところとかあるのか?」

「露天風呂付の旅館とかいいっすね。満天の星空を眺めながら二人でとか最高っす」


「真緒って結構乙女チックなところあるよな意外だわ」

「そりゃ、一端の女の子なんすから憧れとかあるんすよ。お兄さんはそういうのないんすか?憧れのシチュエーションとか」


 憧れのシチュエーションか…前みたいに恋人としたい事みたいなのはある。そう思うが、それを妹が許してはくれないだろうから無難なのでいい…今のままで。


「特にないな、今のままで十分楽しいし」

「ほんと無欲っすよね、でもまぁ今が楽しいってのは分かるっす。好きな人と近くで居られるだけで幸せっすからね」

 真緒は少し頬赤らめながらそう言った。


 真緒は好きな人とストレートに気持ちを伝えてくれている。それに答えられる度量が俺にもあれば、そう思ってしまうのにいつも怖くて踏みとどまってしまう。

 いつか俺も真緒みたいに言いたいことを素直に言えるようになるのだろうか…


「お兄さんそろそろ切らないと遅くなっちゃうっす、ご飯作ってあげないっすよ?」

「それは困るな、じゃあお願いしようかな」


 その後は髪を切る準備をするという真緒を置いて、俺は風呂場に向かった。

 最近俺の扱いが上手くなってきているのは気のせいだろうか…

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