第12話 お兄さんの悩み事①

 俺は高校2年の頃から付き合っている彼女がいた。もちろん妹には内緒で、その時は友達とも仲が良く充実した学生生活を送っていて毎日が楽しくてしょうがない程に。


 でもそれは妹が高校見学してくるまでの話…


 妹が高校見学してきたのは俺が高校3年の時で受験に向けて頑張っていた。彼女とも仲が良く、


『一緒の大学に行こうね』

 なんて話していた。


 妹が高校見学に来た日、妹が一緒に帰りたいって言うから一緒に下校をして、その時初めて彼女を紹介したのだが、それが間違いだったことに今になって思い知る。


 妹に彼女を紹介した翌日、


『ごめん、別れてほしい』

 突然彼女から別れ話をされてしまった。


 何がダメだったのか聞いても『言えない』の一点張り。何かに怯えたような表情だったことを今でも思い出す。


 その日から俺の学校生活が崩れ始めた。


 今まで仲良くしていた友達からは縁を切られ、教室に一緒に居るのに話しかけても無視される。さすがに理由が知りたくて問い詰めるも『言えない』と元カノと同じことを震えながら言っていた。


 それから俺は独りになって成績もだんだん落ちて大学に行く気も失せてきていた時、妹が俺の傍にいつも居てくれた。


『大丈夫だよ!お兄ちゃん私がずっと一緒にいるか』


 最初は嬉しかった。ご飯を一緒に食べる人が居なくても、休み時間やる事がなくても家に帰ると妹が話し相手になってくれた。


 俺には妹しか居ないのではと、本気で思い始めていた。


 そんなある日、妹が高校に迎えに来て一緒に下校しているとたまたま元カノと鉢合わせた。その時の元カノの妹を見る目がひどく怯えているように見えて、その隣の前まで仲良くしていた友達も同じように怯えていた。


 そこでやっと気づいたんだ、俺の学生生活を壊したのがだったことに…


 俺は好きだった人を、かけがえのない友達を全て台無しにされていた事実に大いに嘆いていた。


 妹のやりたいことがわからない、独占欲が強いのは知っていた。でもここまでするだろうか、妹はもしかしたら俺を孤立させて依存させようとしているのだろうか。考えれば考える程怖くなって、


 恐怖で妹の顔もまともに見れない日々が続き、妹しかいない孤独に苛まれて詳しいことは伏せて親に相談することにした。


 親も俺の異変に気づいてくれたのか、卒業後はアパートの管理人と俺の趣味で始めたイラストの仕事で生計を立てることを許可してくれることになり、妹にも俺との接触を極力減らすように促してくれた。


 卒業まで残り半年、俺は学校で案の定していた。妹が何をしたのかは分からないが、ひどく爪痕は残っているようで誰とも話さず学校を卒業することに。

 この半年がどれだけ辛かったか…


『ふぅ、今日からここが俺の管理するアパートか』


 酷く空しい半年を終え新しい生活が始まる。ここのアパートは実家からまぁまぁ離れていて妹にも場所は教えずに引っ越しを済ませると、あるインフルエンサーの人にフォローされてイラストの仕事も急に増え始めていた。


『妹がいなくなってから運がいいな』


 そしてご近所付き合いが始まる。アパートにも人が増えてきて、


『はじめまして、かえでと申します』


 そんなある日、お隣に俺と同じイラストレーターの方が引っ越してきた。俺たちはすぐに打ち解ける事ができ週3程度で話すようになって、何気にアパート管理人生活を楽しんでいた。


 でも…


 1年ほど経ったある日…ピンポーン


 朝に突然呼び鈴が鳴った。


『探しましたよ、お兄ちゃん』


 俺に逃げ場はないのだとこの時悟った。

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