第5話 お兄さんの妹の相談事

「女の匂いがする」

 妹がこちらを振り返る。


 そう言った妹の目は光が無く死んでいた。これまで真緒が部屋にいる状況は何度かあったが今日は様子がおかしい。何か真緒に関するものを隠し忘れていたのだろうか?そう考えずにはいられなかった。


「妹よ、ど、どうしたんだ?」

「ねぇお兄ちゃん、彼女でもできた?」


「いや、出来てないぞ」

 俺ははっきりとそう言った。まだ彼女じゃないからね!事実だから嘘ではない。


「ふぅん、じゃあお兄ちゃんこの部屋に誰か呼んでる?」

「まぁ、そりゃ又にお隣さんとか友達とか?呼ぶこともあるさ」

 正直真緒以外部屋に入れていないのだが…これは黙っておく。


「じゃあ、最後の質問。今この部屋に誰かいる?」

「っ!?ど、どうしてそう思うんだ?」


 この時俺の心臓は緊張のあまりドキドキが止まらなかった。なぜそう思うのか、まったくわからない。もしかして真緒のことがばれたのか!?


「机の上」

「?」


 妹に言われ机の上を見ると、さっき真緒が用意してくれた朝食がそこにはあった。しかも2人前。これは終わったかもな、そう思ったが真緒とのこの生活を妹に壊されては困る。ばれてしまった場合妹が真緒に何をするか分かった物じゃない。もう二度とこの部屋に来れなくなるかもしれない…そんな恐れがある。


 だから俺は真緒の存在がばれない最高の言い訳を考えなければならない。

 一番穏便に事を鎮めるには真緒の存在がばれず妹が喜ぶこと…

 そんなもの――――――――――――あるわ


「あぁ、それな朝妹が来るかもしれないと思って2人分作っておいたんだよ。食べるだろ?」


「え、お兄ちゃんが?私のために…?うれしい、食べる!!!」

 今日一うれしそうな顔になった。よかった妹が俺の前では馬鹿で…


 そうして、俺は妹と向かい合わせになり朝食を取る事になった。


 今日の朝食は肉汁溢れるカツサンドだ、衣がサクサクでパンに塗られているマスタードのアクセントと相性がいい。極めつけは、挟んであるキャベツだ、こいつがいる事により強調し合っていたカツの強い肉の味とマスタードの鼻に通るようなピリッと感を絶妙に和らげて均衡を保っている。


 今日も真緒の料理はうまいなぁ!真緒の顔を見ながら食べられないのが残念でならないが…食べられない真緒の為にも一口だけ齧って残しておこう。


「どうだ妹よ、おいしいだろ?」

「うん!美味しい、お兄ちゃんこんなにおいしいカツサンド初めてだよ。私感激!」


 真緒の料理を喜んでもらえたみたいで俺もうれしい気持ちでいっぱいだ。だが問題は残っている。


「妹よ今日は学校だろ?、行かなくていいのか?」

「いくよ、でもお兄ちゃんに相談に乗ってほしいことがあるんだ」

 妹からの相談…このアパートに来てからは初めてだ。なんだろう?好きな人でもできたのかな?もし、そうならお兄ちゃんすごくうれしい!!!!応援するぞ?


「なんでもいいぞ?俺に答えられる事ならな」

「それがね、親友の真緒ちゃんの事なの…」


 そう言った妹は、真剣な顔をしていた。


「ん…」

「結構前からね、遊びに誘っても断られるようになったの…どうしてだと思う?」


「い、家の用事とかじゃないのか?」

「そういう感じじゃないの、なんだかすごく楽しそうなんだよね」


「あ、新しい友達でもできたんじゃないのか?」

「そうなのかな?学校ではから」


「……なんだろな」

「私思うんだけど…彼氏でもできたんじゃないかなって」


「……」

「ねぇ、お兄ちゃん私どうしたらいいかな?応援した方がいいのかな?でも何も教えてくれないから、心配で…」


「そ、そうだな。他人の色恋沙汰にいろいろお口出しするのもよくないだろうし、真緒の気持ちも考えた方がいいんじゃないか?」


「………?ねぇお兄ちゃん真緒ちゃんの事なんで呼び捨てなの?そんなに仲良かったっけ」

「…………」


やらかしてしまった。

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