第3話 お兄さんの部屋にお泊り

「いいんすよそんなの、私がお兄さんの傍に居たいんすから」

「そ、そっか」


 あまりそういう照れくさいことを言われると一年ほど一緒に過ごしていてもやはり動揺してしまう。


 とまぁそんな話をしていたら、夜も遅くなってきた。そろそろ真緒を家に帰さなければ親御さんも心配してしまうだろう。


「真緒、そろそろ帰らなくていいのか?」

 真緒は、少し考えるそぶりをし、


「んー、いや帰るの面倒なんで今日泊めてくださいっす」

「ほーい、親には連絡しとけよ」


 こんな感じでたまに家に泊める事があるのだが、親への連絡はいつも友達の家に泊めてもらっているというもので、もし今の状況がばれてしまえば俺殺さるんじゃないだろうか。いや、社会的に死ぬな…俺は二十歳なので速攻でお縄ですわ。


「真緒、風呂沸けたから先入っていいぞ」

「あざっすお兄さん!…ふっ、ちょっとくらいの覗いても怒らないっすよ?来ますか?」


「バカッ!覗かねぇし、行かねぇよ。無駄口叩かないでさっと風呂に入れ」


 たまにこういう事を言ってくるからほんとに困ったやつだ。俺じゃなきゃ襲ってるぞ、そこらへんちゃんと教育しないと、何かあってからじゃ遅いからな。


 真緒が風呂に入っている間俺は仕事を進めて納品を済ませ、寝る準備をしていた。俺の部屋にはシングルベッドが一つしかないのでそろそろ真緒用の布団でも買おうかと思っているのだが、


『絶対に嫌っす!お兄さんと一緒に寝れないとか此処に泊まる意味無くなるっす!朝食作ってあげないっすよ、いいんすか!』

 なんて言われるもんだから、なかなか買いずらい。朝から真緒のご飯を食べられるなんて幸せなこと拒否する理由がないからな。むしろ毎日食べたいくらいだ。


「ふぅ、出たっす~、気持ちよかったすよ~」


 そんなことを考えていたら、真緒が風呂から上がったみたいだ。水色のもこもこのパジャマに首からタオルを掛けて出てきた真緒は火照っているせいか少し色気を感じてドキッとしてしまう。


 俺も風呂に入りその後は寝るだけとなった。電気を消して今日も真緒と一緒になってベッドに横になっている。もう慣れたので何とも思わないが、少しくらいは焦ってほしいものだ。


「あの…お兄さん」

「ん?どうした?」

「ちょっとお聞きしたいんですが…」

「どうしたんだよそんな改まって、らしくないぞ?」


 真緒は狭いベッドを動き俺の胸の中で縮こまるようにして身を寄せてきた。

 真緒はこういう時本気で何かを懇願してくる時だけだ。何を言われるのだろうか、


「あの…私、お兄さんの傍にずっといてもいいんすか?」


 暗くて顔はよく見えないが、不安そうなさっきとはまるで違う声。

 さっきも同じ事を聞いてきたってことは本当に気になることなんだろう。ここでごまかすような事をしてしまったら、彼女はどうなってしまうのだろうか。


 この家に二度と来なくなってしまうだろうか、俺と二度と会わなくなってしまうだろうか。それは、寂しいな…


「あぁ、ずっと傍に居てくれ。真緒が居ないと俺は生活できないからな」

「それもそうっすね♪じゃあこれからも好きな時にお邪魔させてもらうっすね」


「あぁ、よろしく頼む」


 そういって俺は真緒を優しく抱きしめると「ふふ、安心するっす♪」と嬉しそうな声が聞こえてきた。こういうのもたまには悪くないかもな、頭の中でそう思い、見えない真緒の寝顔と共に目を閉じた。

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