第2話 お兄さんとの結婚の約束
俺と真緒がこんな風に生活を始めたのは今から1年ほど前からで今は17歳の真緒が16歳の高校2年生の事、春だったかな。
俺は普段滅多に外に出ないのだが打ち合わせで、その日は直接会ってということだったので遠出から帰って、乗り換えで電車を待っている時。ある少女に目が留まった。
その少女は黒髪を短めに切ったウルフカット。
見える横顔からは見惚れてしまうほど整った顔。
スタイルも悪くなく妹と同じ制服だったこともあり少し気になっていた。妹の通う学校からは少し離れたその駅はあまり人気の多くなくがらんとしている。
彼女を見ているとちょうど電車が来ているときだった。彼女の後ろを元気よく走る小さな男の子が二人でじゃれあって遊んでいると、一人の子が彼女の背中を押すようにして倒れこんだ。
その衝撃で彼女は駅のホームから落ちそうなったのだが、電車が通り過ぎる一歩手前の所で俺が手を伸ばし抱きしめる形で助けられた。彼女は死ぬかもしれないという恐怖で身体をすごく震わせ、俺の服を両手で強く掴んでいた事を今でも思い出す。
それからは震えが止まるまで抱きしめた後、軽くお礼を言われ家に帰ったのだが。翌日、妹がその彼女を親友として家に連れてきたのが発端だ。
初めて妹とこの部屋に来た真緒は驚いた顔をしていたが、妹と帰った後律儀に戻ってきては感謝を述べに来てたっけ。その日から毎日うちに来てはお礼にと料理や洗濯掃除など俺の身の回りのお世話をしてもらっているわけだ。
「お兄さん、どうしたんすか?ご飯できましたけど…気持ち悪い顔してぼーっとして、又エッチなこと考えてたんすか?」
「飯前にそんなこと考えるか!いや、昔真緒と出会った時の事を思い出してたんだよ」
「あーあの時っすか、あの時のお兄さん超かっこよかったすよねー。惚れちゃったっすよ、今は微妙っすけど」
「一言多いわ!でもまぁあの一件以来、真緒が部屋に通うようになってからは生活もだいぶ安定してきたから。ほんと感謝してるよ」
「いや~褒められると困っちゃうすね!でも…私も感謝してるんすからね?あの時助けてもらわなきゃ今ここに居なかったかもなんすから」
「……今生きてるだけでそれでいいだろ、あまり暗い話をしても仕方ないし」
「それもそうっすね、じゃあ食べましょっか!」
そう言って部屋の中心にあるローテーブルに二人向き合う形でご飯を食べることに。今日のご飯は、肉汁が溢れそうなほど大きいハンバーグと炊き立ての白ご飯、スーパーで売っている千切りキャベツのサラダ。ドレッシングかマヨネーズかを選べるように机に置かれていた。
食べる用意ができ、俺と真緒は両手を合わし「いただきます」を重ねるように言う。俺が最初に口に入れたのはハンバーグだ。
口に入れたとたん溢れんばかり肉汁が出てきて肉の強い味を包み込むようにしてチーズがこんにちはをしてきた。蕩けるチーズと肉厚なハンバーグの味が炊き立ての白ご飯に合う!
俺の食べる様子を見ていたのか、真緒は満足そうな表情で話しかけてきた。
「ほんとお兄さん、私の作ったもの美味しそうに食べるっすよね」
「実際美味しいから仕方ないだろ?真緒のご飯は毎日食べてても飽きないよ」
「ふふっ、それってこれからも私の作った料理を食べたいってことっすよね?」
「ん?うん、そうだな。可能な限りずっと食べたいかな」
「じゃあお兄さん。私と結婚してくれますか?」
「ぶっ!!…あのな冗談でもそういうのは言うな。本気にするぞ?」
「私は本気っすよ?助けてもらったあの日から」
あまりに真剣な表情で言ってくる真緒の顔を見ているとどう反応すればいいのか困るな。仮に結婚しようとしても真緒はまだ一七歳だからできないし、学生結婚なんてして学校の噂にでもなったら申し訳が立たない。
何より妹に俺たちの関係がばれていないようにしているのに、これ以上の関係になると流石にばれる恐れが…。真緒は俺の考えていることがわかるのかの様に言ってきた。
「もし、涼香に関係がばれても結婚は譲れませんよ?今年の誕生日は入籍がいいっすね」
「まぁ、真緒がどうしてもっていうなら別にいいけど。てか、俺たちまだ付き合ってもないだろ?いいのかそれで」
「いいんすよそんなの、私がお兄さんの傍に居たいんすから」
「そ、そっか」
あまりそういう照れくさいことを言われると一年ほど一緒に過ごしていてもやはり動揺してしまう。
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