第2話

 二人は割高のお土産屋や食べ物が売られている店が敷き詰められた坂を人の間をくぐって登っていった。

「人多いねえ」

 宇宙の後ろで春海が言った。宇宙はこまめに何度も振り返り彼女がちゃんとついてきているか確かめながら歩いていたが、振り返るたびに二人の間は離れていった。彼は彼女に右手を差し出した。彼女は左手で受け取って手すりに体重をかけるようにその手を引き、彼はそれを引き上げた。宙を舞った彼女は楽しそうに笑った。

 一分と経たないうちに二人の手のひらを手汗が湿らせ、宇宙はその手を離したくなった。そのころ坂道の通りを抜け、山頂へと続く階段が見えた。彼が手を握る力を緩めたとき、彼より少し小さい手はまだきゅっと握っていた。一秒後にはその手は肩の下に垂れていた。宇宙が見た横顔の春海は唇を嚙んでいた。


「階段ダッシュする?」

「うん」

 意外な即答だった。

「しないと思ってた。汗かくし」

「だってもう汗かいてんじゃん」

 作り物みたいな美しすぎる笑顔に見惚れてしまった。


「バスケ好きなの?」

「うーん、すき、好き?好きっていうか、気持ちよくてやってる」

 最初の会話は前触れも挨拶もなしに唐突に始まった。7時32分。月曜。だだっ広い曇った体育館に二人。朝日が西の壁を黄色に照らす。

「快楽なの?好きなら好きって言えばいいのに」

「好きかどうかなんて考えないでしょ。シュートにボールが入るあの音が聞きたくてシュート練するの。なんかわかる?」

「うん。見てても気持ちいもんね」

「そう。それ」

 自分が言わせた言葉に納得したことを少し気持ち悪く感じた。

「マネージャーだよね。なんて名前?」

「春海。原春海」

「はるみ、はるみね。おれ桐谷宇宙」

「そら、かー。空、名前大きいね。ありがと、教えてくれて。多分忘れちゃうからまた教えてね」

 制服のポケットを探りながらコツコツとローファーの音を響かせた。その音をかき消すようにボールを地面に打ち付けた。


 コンクリートの大きな花壇のふちに座った。コップ一杯の麦茶を二口で飲み干し、二杯目はゆっくり飲んだ。もう一杯注いで春海に手渡した。その肌に生彩がよみがえった。

「お腹すいたー、やばいお腹すいたー」

「やばいね」スマホの画面と向き合いながら適当なコメントをした。数分間スマホで検索を続けて島を出たところに食堂を見つけた。「おまたせ、食堂みつけたよ。行こう、いける?」

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