6 理想の異世界

 お兄ちゃんが憎嶋を破り半年が経った。その間、私達は憎嶋の組織から送られてくる刺客を返り討ちにしていた。その一方で世間では徐々に能力者が覚醒していった。その能力者達はお兄ちゃんのもとに集まりコミュニティを作った。さらに私の力でいつでも異世界を行き来することができるようになりコミュニティの戦力は強大になっていった。

 もう憎嶋の組織など相手ではない。組織はいつしか刺客を送るのをやめた。それは人類の私達に対する降伏宣言に等しかった。そして現在もコミュニティの拡大は続いている。

 誰も口にはしない。しかし誰もが知っている。この世界は、そして異世界すら、私達がその気になれば簡単に滅ぼされてしまうことに。

 私達は世界を支配したのだ。

 コミュニティの能力者達はお兄ちゃんに敬意を持っていた。逆らうことはしない。もし裏切ろうとしても未来予知で先に処分できる。お兄ちゃんは絶対的な王様になったのだ。

 他の人間達には窮屈な世界だと思われるかもしれない。しかしお兄ちゃんも私もそれでもいい。家族が幸せならば他人のことなど……。

 能力を持たない誰かが言った。

「世界は変わった。ここはまるで異世界だ」

 でも私にとってはここが理想の世界。お兄ちゃんが変えてくれた異世界だ。



 羽愛羅は歪の支配する世界がこの先も続くと確信している。しかし一方で歪は近い未来の自身の破滅を予知していた。

 それはいくら事前に予知しようとも摘むことのできない。破滅への芽は彼の妹の腹の中から生まれようとしている。

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異世界に転生しないために 黒根颯 @otone_kuro

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