side百合
あの夜、お互いの鼓動が重なった感覚が忘れられない。
「こんばんは」
時計は真夜中の零時をとっくに過ぎていた。
「……はい」
もしかして寝ているかもしれないと思ったが、和泉は電話に出てくれた。
「今、大丈夫かしら?」
「大丈夫です」
こんな夜に電話をしたくせに、特に重要な用事はなかった。
「ちょっと、お話がしたくて」
土曜の夜、明日は学校が休み。今日一日、あの子に会えないのが寂しくて堪らなかった。
親に聞こえないように、小さな声で他愛もない話をする。
そんな時間が、本当に愛しかった。
彼女以外は、ただの遊びだった。
確かに、皆可愛かったのだけれど、どこか物足りなかった。
きっと、相手の子も、私に誰かを重ねている。
代理同士で、ただ、いちゃついているだけ。
学校を卒業してからは、お互いに忙しくなり、いつの間にか疎遠になってしまった。
仕事も、他のことも、退屈で、退屈で、仕方がなかった。
どうしても、彼女の声が聞きたくて、一度、電話をかけたことがあった。
本当は、寂しくて、会いたかったのだけれど、電話口の彼女の声は疲れていた。
そこに遠慮してしまって、近況報告と無難な言葉しか出なかった。
「私、結婚することになったの」
少しの沈黙の後、彼女は「おめでとうございます」と言った。
「行きたくない」
そう言えばよかった。
二人で、遠い所に逃げて行きたかった。
「和泉」
「百合……さん」
「もう、さん付けではなくて良いって言ったでしょう」
真面目な和泉は、一つ上の私を、呼び捨てにするのに躊躇っていた。
そんな初心なところも、可愛らしくて、抱きしめてしまう。
学生時代の幸せな記憶ばかり、思い返してしまう。
私は「夫」になるらしい存在を愛していない。
触れられる度に、どうしようもなく、嫌悪を覚えてしまう。
汚い、汚い、汚い、汚い―――
私が「それ」のモノになってしまう前に――――
彼女が「誰か」のモノになってしまう前に―――――
永遠に、乙女のままで―――――
「和泉」
「百合」
痛いくらいが良い。
あの夜みたいに―――――
美しきネクロフィリア 夢水 四季 @shiki-yumemizu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます