第11話

「――というわけで、瀬名に料理を習うことになった」


 今は夕飯中で、今日のメニューは俺の作った野菜炒めだ。

 適当に切って、焼き肉のタレを使って焼いただけという非常にシンプルかつ実用的なメニュー。


 しかしやはりあまり美味しくはないのだろう。

 永遠の箸の動きは鈍く、ちまちまと少しずつ口に運んではゆっくりと咀嚼している。


 それでも文句を言わずに食べていた永遠だったが、俺が次の言葉を言ったところで、その動きが止まった。


「つーわけで、これからしばらくの間、帰ってくるのが遅くなる日がちょいちょいあると思うから、そんときは適当にやっといてくれ」

「え……」

「? なんだよ?」


 永遠は「ちょっと待て」と言わんばかりに手をパーにしてこちらに突き出す。そして箸を置き、口の中のものを飲み込んでから話し出した。


「一応確認なんだけど『遅くなる』っていうのは、その日は瀬名さんと一緒にご飯を食べてくるってことになるんだよね?」

「まあ、確認したわけじゃないけど、そうなるだろうな」


 自分で作った料理だ。

 人様(永遠だけど)に教える目的なんだから、出来映えくらいは確認しておかないといけないだろう。

 俺はそんなに器用な方じゃないし、最初から上手くいくなんて思っていないからな。


「ふーん」


 だが永遠はそれが何か気にくわなかったらしく、わかりやすく唇を尖らせて見せた。


「なんだよ?」

「べっつにー?」


 永遠はそれだけ言って食事に戻ってしまう。

 俺が「何か気に食わないなら言えよ」と言ってみても、無言のままだ。

 そして残っていたものを掻きこむように食べてしまうと、「ごちそうさま!」と荒々しい態度で言って、布団に潜り込んでしまう。


 これ以上なく見事な不貞寝だった。

 

 ……意味わからん。


「おい、どうしたんだよ」

「だから別に、何もないって」

「だったらなんでそんなところ潜ってるんだよ」

「うるさいなぁ……」


 永遠は頑なだ。

 どうやら話すつもりはないらしい。

 無駄だと悟りつつも、念のため食い下がってみる。


「黙ってたらわかんねぇだろ」

「だーかーらー、何もないんだって! 別に夕霧は後ろ暗いことしているわけじゃないんだから、好きにすればいいじゃん。そもそもその習いに行くのだって、私に教えるためなんでしょ? なら、なおさら夕霧が気にする必要ないし」

「意味わかんねぇ……」


 ダメだ、やはり埒が明かない。

 永遠のことだ。このまま訊き続けても、答えてくれることはないだろう。


 すっかり白旗を上げた俺は永遠に「歯、磨けよ」とだけ言うと、永遠が布団から出て来られるようにしばらくの間家を出た。

 

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