第七話:4人で勉強!

「さて、と」


 昨日の勉強会も無事(?)に終え、帰ってからは倒れるように眠ったおかげか、授業中の内職がいつになく捗ったため、気分良く帰ろうとすると、


「どこ行くつもりだ?」


 後ろから肩を掴まれる。


「げっ、達也……」


「げってなんだよ。いつからそんな冷たくなったんだ、俺は悲しい」


「お前に対しては始めからだ」


 わざとらしく泣きまねをしてくる達也を軽くあしらって再び帰ろうとするが、


「だから待てって」


「……なんだよ」


 正直嫌なロクな用事だとは思えないのであまり相手にしたくない。


「吉野ちゃんと一緒に勉強してるんだって?」


「っ!……どこでそれを」


「いや、フツーに吉野ちゃんが話してた。『本当にわかりやすくてー』ってなぜか得意げに自慢してたぞ」


「あ、まじで」


 達也なんかに知られたら、付き合ってるだとか妙な邪推をしかねないので俺としては隠しておきたかったのだが、そういえば吉野さんに口止めはしてなかったな。


「あー……。そうだな。じゃあもう待たせてるから」


 こうなってしまっては隠すことは無駄だと判断し、さっさと話を切り上げる方向に舵を切る。面舵いっぱいだ。


「待てって言ってるだろ、俺らも混ぜてくれよ」


「嫌だよ。お前は鈴木さんにでも教えてもらえよ」


 あまり確信はないが確か、結構上位の成績だったはずだ。


 ここで、気になることがあった。


「ん?『俺ら』って……?」


 にやりと右の口角だけを吊り上げたとか思うと、肩を組んで


「ま、いいから行こうぜ」


 と促してくる。


「はあ」


 向こうにも話が通っていることを暗に示してくる達也に、ため息をつきながらついていく他なかった。


 もはや定番となってしまったファミレスで、対面に男女分かれて座っていた。


 俺の向かいには吉野さん、達也の向かいに鈴木さんが座る形だ。


 ちなみに席順の決定に俺は一切関わっていない。鈴木さんが始めに座ったところ、その対面に達也が滑り込んで行ったのだ。


 相変わらず感情に素直で分かりやすい。そんなあからさまな動きをする勇気があるならなぜ隣に行かなかったのかという疑問は湧くが、達也は満足げにしているのでよしとする。


「んで、なんで達也たちまで合流することになったんだ?」


 2組に分かれてドリンクバーを取りに行き、勉強道具を各々が取り出している最中、ようやく聞くことができた。


「あ、もしかしてお邪魔だったかな?」


 つい達也と話すときの口調で聞いてしまい、鈴木さんが申し訳なさそうに聞いてくる。それを見た達也が隣からガンを飛ばしてくるので、そちらには手で「悪いミスった」とサインを送ってから


「ううん、ごめんね。そうじゃなくて、ただ気になっただけだから」


「そっか、良かった。えっとね……」


「んんーーー!」


 なんかノイズが入ってきた。……と思ったらメロンソーダを口いっぱいに詰め込んだまんま、なぜか手を上げている吉野さんだった。


 炭酸飲料に特有のシュワっとした喉の痛みに、少し辛そうな顔をしながら急いでメロンソーダを飲み込むと、


「私が誘ったの! さやっちと古賀くんいた方が面白いかなーって思って!」


 笑顔というよりはにやけている。いたずらが成功した時の子供そっくりだ。


 その顔で、初めて一緒に帰った時のことを思い出す。その時も達也と鈴木さんの話題でニヤニヤしていた気がする。


 つまり、一緒に勉強することで2人がどんな感じなのか見極めたい。あわよくば、くっつけたいと言ったところだろう。


 その意味に気がついたのか、鈴木さんは「もう〜〜!」と言って吉野さんの胸に顔を埋めている。


「なんも相談しなかったのはごめんって思ってる! でもこの2人なら知らない人じゃないし、大丈夫かなって。」


「いやいいよ、実際この2人なら全然大丈夫だし」


「真斗がデレた!? 俺照れちゃう!」


「達也キモい」


「ひどくない!?」


 泣きそうな演技をしている達也を一通り笑い終えてから、勉強に移ったのだが、


「真斗……これまじ……?」


 達也が驚愕しているのは、吉野さんの集中力に関してだ。


 昨日に引き続き、周囲を圧倒するほどのオーラを放っている。


「まじ。俺も最初はビビった」


 ただ、これに関しては何回見ても慣れる気がしない。


「俺正直、真斗と吉野ちゃん、一緒に勉強するとか言ってイチャイチャしてるだけだと思ってた」


「だろうと思ったよ。で、実物見た感想は?」


「ごめん、俺が間違ってた」


「よろしい」


 死にそうな顔をしている達也の向かいで、鈴木さんは苦笑いを浮かべている。


「鈴木さんもしかして、見たことある?」


「う、うん。週末に宿題とか一緒にしたことあるんだけど、話しかけても全然気がついてくれなくて……」


「なるほど……」


 控えめながらも懸命に話かける鈴木さんと、それに全く気がつかない吉野さんの姿が目に浮かび、クスッと笑ってしまう。


「じゃ、俺らもやるか」


「うん、そうだねー」


「うええ……」


 俺を連行しておいて一人やる気が全く感じられない達也をよそに、問題に目を通し始める。吉野さんの放つオーラに感化されてか、その日は3人まとめて学生の本分を全うしたのだった。

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