第36話 一方そのころ...(ルーナ視点)

今、私の目の前には非現実的な光景が広がっている。森の中とは思えないほどの村。いや、町と言った方が正しいと思えるほど広いのである。さっきまでは、それはそれは怖い怖い森。しかし、シリルがいないことに気づいた後の10分後。ルーシーが急に走り出し、道をわかったかのように突き進んでいった。私も、無我夢中でそこに走り出した。そしたら、ここに到着した。そして、もう一つの非現実的なもの。


「ミラシア!」

「~っ!?ルーシー!」


シリルの奴隷、ルーシーは叫び走りながら村の敷地内に入って、ミリシアという女性と熱い抱擁を交わしながら、お互いの長い耳をぴくぴくさせていた。ミリシアさんは涙を流しながら、ヒックヒックと嗚咽が入っている。感動の再開というものなのだろうか。やがて、ミリシアさんの嗚咽声でぞろぞろと人が集まってくる。外野はがやがやと騒ぎ始めた。


「大丈夫だヒック、奴隷にされたりとヒック、かしてない!?」

「お、落ち着いて」


すぐさまルーシーに安否の確認。ルーシーも若干困り気味でもある。そして、私が初めて聞いたルーシーの声。柔らかかった。何か、私たちとは違う感情が入ってるような声なのがすぐにわかる。いや、そんなことはどうでもいい。私は駆け足でルーシーのもとに向かった。


「ヒック......~っ!戦闘態勢!」


嗚咽しながらミリシアの頬に滴る涙をルーシーがふき取った。私が村の敷地内に入るための橋を渡ろうとすると、ミリシアは私の存在に気づき、視線は私へと釘付けに。少し頭を傾げた後に、何かに気づいたかのように目を見開き、叫んだ。え、ちょっと待って....戦闘態勢?私の思考が完結する前に、敷地外からもわかる櫓から4本近くの矢が飛んできた。


私はすぐさまバックステップを踏んでそれを除ける。よく見ると、矢の先端には毒が塗られている。おそらく植物性ものだろう。この森に生活してるだけあるものだ。


「ミリシア!やめて!」

「何言ってるの!?あいつは人間よ!?あなたの後ろを追ってきたのよ!まさか、ルーシー脅されてここまで連れてきたの!?」

「だからやめてって!!」


ルーシーが抗議の声を上げるも、周りに集まった外野の人達は各々の装備を構え始めた。すべては、村を守るために。人数は数えられないが、そこそこある。弓を撃っている人たちも、精度は悪くない。気を抜いたら、死ぬ。しかし、見るからにルーシーと同種族の方たちを攻撃するわけにもいかない。シリル、あなただったら、どう対処する?


そんな考えをしても、ここにはシリルはいないしこの質問に回答してくれる者もいない。そして、また矢がとんでくる。頭、首、胸、腹。確実に大きなダメージを与えられる場所に狙いが定まっている。しかし、私もこんなところでミスをするわけにはいかない。持っている剣で矢を切り刻み、また思考を回転させる。一本飛んできた。矢が、一本だけ飛んできた。弓の装填時間とは思えないほどの速度だ。もちろん、こんなに早くもう一度が来るとは思っていなかったため、私には対処がしきれない。ギリギリ顔をそらし、避けたものの完全にこっち側が劣勢。私の視界には、また相談を始めている。どうすればいい.....そんなことを思っていると、ルーシーが私の目の前に入ってきた。


「やめてください....」

「ルー、シー?」

「ルーナ様を攻撃するんだったら、私はあなたたちの敵になります!確かにこの方は人間ですが、私の好きな方・・・・・のパートナーを攻撃する者たちとは決してうまくいくとは思いません!例え、向こう側に親友がいようと.....ここが生まれ故郷でも!!!!」


ルーシーが言葉を発するたびに、ある不特定多数者たちがピクリと動いた。あなたたちの敵になるといった時には、やぐらにいる者たちが弓の引き絞りを緩め、親友という言葉を発すると、ミリシアさんともう一人の男が冷や汗をたらし、ここが生まれた故郷でもといったあとに、杖を突いた老人がフォ!?と声を荒げた。ルーシーは右手を前に出し、詠唱を始めた。


「妾の身に宿りし魔力よ。暑く燃え上がる完全燃焼を目の前の者どもに試して見せむ。かくて、成功せるとき暁には目の前は火の海にすら生ぬるき光が大地を照らさむ!『火炎フレイム竜巻ストーム』!」

「分かった!猛攻撃はせんからその詠唱を止めてくれ!頼む!」


ルーシーが放つとは珍しい特級魔法、特級魔法の特徴は詠唱が古文に似ていることだ。この言葉で特級ということが分かるが、威力はとても強いため、使いこなすのは相当な時間が必要なもの。全属性が特級越えな魔法師はおそらくこの世界の一割もいない可能性がある。そんな魔法を村に、しかも森の中にブッパされたらたまったもんじゃない。それを理解したのか、老人がやめてくれと懇願してきた。やぐらの者たちも弓を置き手を上に上げている。ルーシーは静かにそれを聞き、手に浮き出た魔法陣はゆっくりと消えていった。


「....ただいま、みんな」




「どうも、ルーナと申します」


私は村の中心にある大木の中にある応接室のような場所に招待された。木の中が大きく繰りぬかれており、テーブルや椅子がまばらに配置されている。そして、中心には会議に適している大きな丸いテーブル。それを囲うように椅子が配置されている。私が座ると隣にルーシーが座り、その隣にはミリシアさんが。そして、私の対面で老人が座った。


「丁寧にどうも、私はこの村の村長をおるルーファスと申す」

「私は、村の衛兵をやっています。ミリシアです」


老人は優しい目と声で自己紹介をしてくれているが、ミリシアさんはまだ私に対して警戒を解いておらず、少し目つきが鋭くなっている。私は、とりあえずこの人たちからの信頼を獲得することが大切だ。


「まず、突然の訪問申し訳ありません。人間ながら、エルフ種族様たちの心を不快にさせてしまったかもしれません。しかし、私は全くエルフ様を悪用しようとは考えておりません」

「そんな言葉信用できるわけないでしょ!?」

「ミリシア!落ち着いて!」


私の言葉がどうにも信用できないのか、ミリシアさんは立ち上がり物凄い気迫で怒号を上げた。ルーシーも抑えてくれているが、それでも勢いが余ってしまう。私に向ける視線は、やはり重く冷たい視線のみ。悲しいのは、言わずもがなだ。


「私は、シリルに危害が加えていなければ、ここを即刻立ち去れと言われたらそうします」

「シリル?誰の事?私そんな奴に合ってないよ、ルーシーも知らないでしょ?......ルーシー?」


ルーシーが毒林檎を食べたかのように顔が青ざめている。おそらく、シリルとの関係がばれるのが怖いのだろう。主人と奴隷。私が放ったエルフを悪用しないという言葉に大きく反する行動だ。もちろん、私も怖い。でも、ここでの進展を作るには言わなければいけない。村長さんも、私たちの会話をうかがっている。


「.....様」

「?ルーシー、なんて言った?」

「シリル様は、私の、ご主人様です」

「...........は?」


この瞬間、ミリシアさんがルーシーに向けていた笑顔が、一瞬にして消え去った。顔は凍り付き、その言葉を信じたくないと言わんばかりの声。しかし、ルーシーはここで真実を話す。


「私が奴隷、シリル様がご主人様」

「は!?ルーシーは奴隷に売られたの!?」

「売られたけど、ご主人様に助けていただいたんです」

「買われたんだから助けられたとは言えないじゃない!」


ルーシーは、おそらく本心を話している。勘だ。でも、その目が、今までのストーリーを物語っているようにも見える。そんな貫く視線を向けられたミリシアさんは、少しのけぞり、歯を食いしばった。


「私は、セリに出された。裏の世界で。そんな中で、私がそんな人たちに渡されないように、金額に大きな差をつけて買ってくれたの。白金貨5枚、これが今の私の価値」


ルーシーも立ち上がり、大きく向き合った。瞳を見つめ合い、お互いの考えを譲らないと言わんばかりに。次の瞬間、大木に入るための扉からばたんと開く音がした。


「敵襲です!人間1人と、デビルスパイダーです!」


私はすぐさま悟った。シリルが帰ってきた。

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