第33話 試練

これより、試練を開始する。


俺の耳に、直接響く中性的な声。試練を開始すると言葉の響きが完全に消えたころ、俺の肌を守る布が下着以外何もなかった。パンイチだ。目の前には広大な森、ところどころに音がする獣と魔物の声、手に握られている戦うには心もとなさすぎる1つの木の棒。こんな状況になる前、2時間近く前を遡ろう。





「ご主人様、この森の探索に行きませんか?」


昼時の1時、俺とルーナに向けてルーシーが依頼を受けようと提案してきた。俺は暇だったため、快く承諾しギルドに来ていた。ルーシーがとったのはDOUBLEダブルSシグマランクの依頼。北の森の凶暴化魔物の討伐。数はとはず、魔物の種類と数で報酬が左右される。凶暴化魔物とは、ある一定数の魔物が引き起こす病的なもの。この病にかかると魔物の攻撃力が上がり、理性が保てなくなる。そのため、凶暴化した魔物は討伐ランクが1段階上がる。そんな魔物をどれだけ殺せるか。こういう狩りは好きな方なので。俺はそのままルーナと了承して、依頼を受けた。


森に到着したのは依頼を受けてから約1時間半後。いろいろと準備があり時間がかかってしまった。森の中を探索していると、凶暴化している魔物がごろごろといた。エリートゴブリンやらハイワイバーンやらぞろぞろだ。しかし、なぜだが普通の動物がいなかった。そこに違和感を覚え始めるころ、近くにルーシーとルーナの姿がなかった。何回も叫んだが返事が全く帰ってこなかった。そして、視界が真っ白になっていった。そして今に至る。


試練の内容を説明する。

この試練は技術の試練。技術を要いて、目的を達成したのならそれに見合った報酬を授けよう。

まず、この試験実行中は服は下着のみである。また、技術のみでの戦闘になるため、スキルを全部使用禁止とし、数値ステータスは全て10になる。

試験クリアの条件は、この森の中にある各所の3つの魔物の群れの壊滅。壊滅させると、水晶が出現します。その水晶を森の真ん中にささげること。さすれば、試験は達成となる。


俺の頭の中で響く声に集中しながら考察していく。あの森に行くと必ず起きる試練なのか?それとも選ばれたらできる試練なのか。これは死んでも何度も挑戦できるのか?それとも死んだら人生ごと終わりなのか?そんな不思議を心の中で込めておく。声がやむ。何も変わらず、森が目の前にあるだけだ。俺はステータスを確認する。


攻撃力・10

耐久力・10

体力・10

魔力・10


特殊スキル(所持不可)

通常スキル(所持不可)

条件発動スキル(所持不可)


なんとも雑魚すぎるステータス。俺はこれから子供レベルのステータスのくそ弱い木の棒で戦闘を始めるのか?終わってるな。少々苛立ちも覚え始めてくる。ルーシーもルーナも無事ならいいのだが。俺は広大な森を歩き始める。


「いっつ」


いつもは靴があったものの、靴がないとそこら辺にある枝が俺の足にぶっ刺さってくる。歩くたびに疲れが見えてくる。体力が少ないとこれくらいの歩行でも疲れが見えてくるのか。戦闘は相当な技量が必要ということか。はぁ、こなきゃよかったかもな~。そんなことを思っていると、右方向からゴブリンの声が聞こえた。相当遠くだが、分かる。視力、聴覚、触覚、などは多分今までのままだろう。さすがにここまで変えられるのは違うしな。俺はなるべくパキっと枝を折らないように慎重に進んでいく。300メートル近く進んだ。俺の目の前には少しだけ森が開けている場所があった。しかし、そこには魔物の群れがある。....あのさ、試練をするのは別にいいんだけどね、ここにエリートゴブリンとフローズンゴブリンを送り込むのは違うと思うんだ。何なら俺フローズンゴブリンと戦ったことないし。


フローズンゴブリン。氷山地帯でよく見かけられる特別変異ゴブリン。体に冷気を纏っており、攻撃全般が冷たい。と本で読んだことがあるだけで、実際はそうかわからない。攻撃を食らった部分が凍結されるなどかもしれない。そこまで来ると俺に勝ち目はないのかもしれない。フローズンが1体でエリートが4体。おそらくフローズンがボス的な感じだろう。これで多分3つの中で最も簡単なんだろうな。俺は体力を完全な状態になったの感じたら、しゃがみながら移動を開始した。目当ては目の前にあるショットガン。それ以外は棍棒。俺は早くこの木の棒を捨てたいんだ。正直お荷物すぎる。ゆっくり、ゆっくり移動していく。


「ゴ?」


まだそこそこ距離があるのにエリートゴブリンに感ずかれた。今までは『無呼吸』やら『歩行音抑制』に助けられただけであって、俺単体の技術はあんまりなんだなと思い知らされた。もうバレたなら仕方がない。俺はなるべく体力を消費しないように走り、目の前のショットガンめがけて手を伸ばす。ゴブリンは急に聞こえた俺の足跡に動揺はしていたが、フローズンゴブリンは同じようにショットガンめがけて手を伸ばした。ギリギリ、取れなかった。


「~っ!」


ドォォォン!!!


フローズンゴブリンはショットガンを取ると、すぐさま俺に銃口を向けて撃った。もちろん、死なない。俺はすぐさま横へ飛び込む。しかし、ショットガンは散弾銃。2発分が俺の右腕に当たった。本に書いてあった通り、たまには少しだけ冷たさがあった。また耐久力がないため、カスな弾でも俺の腕は貫通してしまった。ドロドロと血が流れてくる右腕、痛みをこらえながら木の棒を構える。右からエリートゴブリンが棍棒を持って襲い掛かってくる。俺はホントにカスい攻撃力でそれを抑えようとする。しかし、エリートゴブリンはそれを許さなかった。棍棒は俺の左肩へ直撃。ガァ!と大声を出しながら後ろへステップ。目の前には勝てると確信したのか、ニチャァとした顔を向けてきた。このままだと、死ぬ。どうすればいい。どうすれば勝てる?この時、いつもの俺ならどうする?考えろ、考えるんだ。そんなことを考えていると、ある1つのことを思い出した。


『あなたは強いです』


ルーナと出会ったときに言われた、1つの文章。俺はこの時、まだ自分のことを弱いとか思ってたな。今実際弱い、でもその考え方が違うんだ。せっかくルーナに俺は強いと考え方を訂正してもらったんだ。ここで弱くなったらどうする。強いと言われたんだったら、退化するもんじゃないんだ。そうだ、俺は、強いんだ。もう、お遊びは終わりだ。


俺は持っていた木の棒を後ろへ投げた。俺は、手を顔の前に置いた。棒なんてせこいものは使わない。ここまで来たんだ、殴り殺すのが筋ってもんだ。ゴブリンは俺が棒を捨てたのがばかばかしいのか、ものすごく笑いこけている。1体のごエリートゴブリンが、俺の目の前へとやってくる。棍棒を振って、俺の頭へ振り下ろす。人中って、確か呼吸困難とかになるんだっけ?


「ガァァァァ!」


俺は鼻と口の間のくぼんだ人中という部分を、思いっきり殴ってやる。人中は、強い衝撃を受けると呼吸困難になったり重度の外相を負わせることができる。しかも、うまくいけば歯も逝ける。ゴブリンは大声をあげながら後ろに倒れこむ。別に筋力がなくても、技術の試練なんだ。俺はすぐさま近くのゴブリンへ移動。そのまま乳様突起を殴る。ここは耳の後ろにある、円錐状の突起した骨で、大きな衝撃を加えると、平衡感覚が狂う。ゴブリンはふらつき、そのまま横に倒れていった。残り、3体。フローズンゴブリンを見た瞬間、ショットガンを撃ってきた。俺は倒れたゴブリンを背負い、ゴブリンを盾代わりにした。ゴブリンは絶命し、俺は無傷で終わった。俺はゴブリンを投げ捨てると、そのままフローズンゴブリンの突っ走る。フローズンゴブリンは、俺を化け物ように見ているのか顔が真っ青である。俺は、鳩尾を殴った。すると、周りに冷気を纏っているだけあって、殴った瞬間に俺の腕が凍結し始めた。痛い、痛いけど、こいつを殺すためなら耐えられる。俺は2発目を鼻にお見舞いした。もちろん、フローズンゴブリンは耐えられずにそのまま倒れこんでいく。俺は倒れこんだ瞬間、心臓めがけてかかと落とし。心臓って、骨の隙間から行けば簡単に届くんだよ。筋肉でできている心臓は簡単につぶれた。あと2体。と思っていたら、後ろで逃亡していた。まだ痛みにこらえているゴブリンが1体いるのに、2体で逃亡を図った。とりあえず、俺はこらえているゴブリンにとどめを刺す。もう結構な差が開いてしまっている。この体力だが、行くしかない。俺は全力ダッシュをしようとした。でも、次の瞬間、俺の目の前に水晶が浮かんできた。壊滅だから、別に殺さなくてもいいのか?そんなことを思いながら、俺は水晶を受け取った。あとこれを2回?死ぬって...

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