第28話 引き出せる力

ステータスのユニークスキルまで隅々まで確認した俺は、驚愕をあらわにした。名前は瘴気の器、さっき瘴気が言っていたのは俺の体を乗っ取って使うことがちょうどいいということだったのかもしれない。俺はとりあえずステータス共有を押した。ルーシーはステータスが出てきたことに驚いていたが、すぐさまステータスに目を通した。


「なんですか、このステータス。数値ステータスはほぼ1万、しかもユニークスキル」

「瘴気の器ってことは、あいつの力が俺の体に宿ったってことだと思うが」

「私も何回か本でユニークスキルに関しての本を読んだことがありますが、こんなユニークスキルは生まれて初めて聞きました」

「持ってる人が少ないんだし本に書いていないユニークスキルなんてあって当然だろ」


俺のステータスのユニークスキルを見て今までの本の内容を掘り返したルーシー。その中にも、『瘴気の器』はなかったらしい。鑑定の通りに考えると本の中のユニークスキルは全部じゃないってことは明らかになる。正直、うれしくない名前。なんか負けた証みたいじゃん?俺は負けたけど行かされたみたいな感じじゃん?すっげぇステータスに泥を塗った気分。そんなことを思いながらも、俺はいまでもできるスキルを1つ使うことにした。


「ちょっと、試したいスキルが1つあるんだけどいいか?」

「ユニークスキルのやつですか?いいですけど死なないでくださいね」

「分かってるって」


相談すると、いいと言われた。死ぬわけない死ぬわけない、そう軽く返事をして、俺は瘴気武器を作成する。想像としては魔法と同じ感覚でいいだろう。血液の中に存在する禍々しい瘴気を手の平から出すイメージで、俺は弓を作り出した。大きさ的には長さ45センチメートルくらいの細長い弓で、すべてが黒でできている。真っ黒で、その他の装飾すらない。重さも全く感じず、めちゃくちゃ固い気体を持っているような気分になる。そして、これは瘴気武器の癖がある部分だが、武器は俺の体から出しているようなものなため、手の平と弓はくっついている。つまり、何をしても手から離れることはないということだ。投げナイフやクナイなどはこれから作っても意味がないと同じくらいになるな。


「結構すんなり作れるんですね」

「そうだな、1発撃ってみるか」

「頼みますからしょぼくないようにしてくださいね」

「一応EXランクの魔物に認められた身だぞ」


少しジト目で俺を見つめながら文句を垂れてくるルーシーに反論しつつ弓に普通の矢をはめ込む。おそらく、瘴気の湯を作っても飛ばないだろうし。おそらく、ここにきて死んでしまった冒険者らしき死骸の隣に何本か矢が落ちていたので借りさせていただいた。しっかり狙いを定め、とりあえず壁に向かって試し打ち。結果、目の前の壁一面がひび割れた。まだ崩壊までとはいかない。でも、これでも最大まで引き絞っていない。ルーシーも見ていたし、万が一やりすぎた困るため手加減したが、手加減してこれ。


「....何か力の差を見せつけるときにしか使わないでください」

「なんだよ力の差を見せつけるときって」

「そんなことより、まだあります?」

「まぁ、あるにはある。1つは条件発動スキルみたいな感じだから今は使えない。1つは、ちょっと怖い」

「大丈夫です、私がついてますから」

「それは、さっき俺が言いたかったな」

「もう過ぎたことです。強くなって帰ってきたことをありがたく思いましょう」


少し固まった後、ルーシーはなんかよくわからない回答で返事をした。それを疑問で返すも、普通に受け流され俺にまた質問を投げつけてきた。できるとは言った。が、鬼神化みたいに理性を失ったら怖いしな。そんなことを口にすると、大丈夫とルーシーが励ましてくれた。俺が言いたかったと返事を返すと、これまた励ます口調で回答が返ってきた。俺は少しためらいながらも、『瘴気魔化』を発動した。すると、俺の体の中にある瘴気が急に活性化したかのように俺の力が膨大したように感じた。俺の体は瘴気を解き放っており、俺の体自体も真っ黒に染め上がっていた。自分の手を見て少し驚いた。すると、俺の目の前に俺の分身が現れた。試しに、命令してみるか。


「とりあえず、この洞窟にいるまものを全部狩ってきてくれ。ただし、ルーシーだけは手を出すな」


俺が命令を下すと、分身は小さくうなずいた後、俺の真横をものすごいスピードで駆け抜けて通り道に突っ込んでいった。とりあえず、俺も試したいことはある。まず、魔法。今は瘴気、毒、浮遊魔法が使えるはずだ。最初は浮遊魔法。...これの発動方法知らないな。やっべぇ、きついな。魔法の発動方法知らないとできないじゃないか。そんなことを思っていると、2人目の分身が俺の目の前に現れた。あ、そうだ。


「な、瘴気と毒と浮遊魔法のやり方教えてくれないか?」


どれくらいこいつらが分かるのかも知れるし、俺も魔法が使えるようになる。一石二鳥だ。分身はコクコクと頷き、俺が破壊しかけた壁の反対側の壁に向かって左手を突き出した。


「我が体に循環し瘴気よ、今こそ我から解き放ち、目の前の生命力を奪い取るのだ!『瘴気弾』」


詠唱をし始めた分身、俺から出ている瘴気を吸い取り壁へ打ち込んだ。威力はもちろんびっくりする。ただでさえぼろぼろの壁は追い打ちを食らい、そのまま一層分砕け散った。唖然としている俺に、分身は無言で俺の方を向いてきた。これまたコクコクと頷き俺でもできるという意思疎通を交わしているような。詠唱か、これ消せるよな。安直な名前じゃなく、もっといい名前でもいいし。まぁとりあえず今回は瘴気弾でいいとしよう。俺はいつもの無詠唱と同じように心の中で唱えた。すると、やはりこちらでも適法されるのか俺の右腕から出た瘴気弾はまた一層分の壁をもぎ取った。よし、分身。お前はルーシーが何かあった時用に護衛をしてくれ。とりあえず、次は毒魔法。とりあえず『有害な噴煙』でよしとしよう。発動すると、俺が解き放った瘴気と抜けていく体力が混ざり合い、周りに小さいガスグレネードが散乱した。グレネードはドンという音を合図に爆発し、周りは緑色の空気に包まれた。俺は別に害はないが、せっかくなら分身に教えてもらう。さっきできた分身3に話を聞く。


「なぁ、この毒の作用を教えてくれ」

「すって数秒経つと吐き気と視界不良が症状に出る。30秒近く吸うと意識を失い、1分近くするとおそらく死亡する」

「お、おう」


結構グロテスク....まぁ有効に使うんだったら室内戦闘や洞窟とかでの戦闘だな。屋外にはあまり使えん。そんなことを思いながら毒魔法を解除。すぐさま浮遊魔法に移る。名前の通り浮けるのだろうと考察をしつつ、名前は『青天井への漂い』ということで、早速発動。だが、全く反応は見せなかった。もしかしたらこれは浮遊する相手をちゃんと考えてからじゃないと発動しないのかもしれない。今回は対象を俺に設定したつもりでもう1度発動。俺は徐々に足は地面から離れていき、結果10センチ近く浮くことに成功した。感覚としては半無重力空間に投げ出された感じ。体力を多く消費すればより高く飛べる。飛び方を学習をしていると、狩に出ろと言っていた分身1が帰ってきた。手は血にまみれており、所々瘴気を殺した後もある。俺はとりあえず地に戻り、これ以上解除したときに痛みを伴わないようにスキルを解除した。周りに解き放たれた瘴気と分身が消え去り、俺の血管を圧迫するかのように入り込んできた。体の中に存在する血管がはちきれそうな感覚が急に襲い掛かってくる。でも、瘴気が入ってきた時よりはまだ痛くないため、俺はぎりぎり声を抑え痛みを耐え続けた。

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