第25話 命のお話は真剣に

洞窟に入ってどのくらい経過しているかわからない。雨は降っているが、岩の隙間から入ってくる光は限りなく少なくなっている。俺の腕はどこもかしこも傷だらけだったせいで腕の再生はまだ完璧ではない。肘までは再生が行き届いているがその先はまだまだ。その分、ほかに目立った外傷はなく魔力と体力も徐々に回復方向に進んでいる。俺はバックから治癒ポーションを取り出す。一応入れておいたんだが、俺は腕にかけるにルーシーの患部へかけてやった。少しばかりだが傷は回復し、出血もある程度収まっていく。すると、全く起きる気配がなかったルーシーの瞼がぴくっと動き、そのまま瞳を露わにした。


「大丈夫か?何か違和感があるところはあるか?」

「んん、あえ?」


まだ脳が覚醒しきっておらず、瞼をこすりながら手をついて上半身を持ち上げた。俺と目が合うと、そのウトウトした目はすぐさま開ききった。こんなタイミングで私だけ休んでしまったとかわかりやすい顔をしている。ルーシーは目をそらし視線を下へ向けた。そこで、ルーシーの目は俺の右腕に行った。額は青ざめ、頬には汗が滲みんでいき、体の芯からプルプルしている。


「ご主人様、その右手...」

「あぁ、ドラゴンと1対3してさ。気づいたらなかったんだ」

「そんな、気づいたら失っていいものじゃないです!」

「んなもん知ってる、お前を守るためにやってこうなったんだ。後悔はない」

「わ、私のため?」

「そう、ルーシーのためだ」

「私は奴隷ですよ!捨て駒みたいなものですよ!正直、私だって死にたくないですけど、ここまで疲弊して使い物にならなくなった私を何で助けたんですか!私も奴隷になったときは絶対に街に戻ってやるって思っていましたが、なぜ今助けたんですか!命を大切にしてくださいよ!」


俺が鬼神化中に失ってしまった右腕の話をすると、ルーシーは大声で叱ってきた。お前のためというと、さらにキレた。自分をなぜ助けたのか。俺は命の大切さを知らないみたいな言い方をしてきた。目はしっかり俺の目を睨み、怒っていることが見てわかる。最後のいい終わりには地面をたたき、怒りを地にぶつけている。俺は、反論のためゆっくりと口を開いた。


「とりあえず、俺の意見を聞け」

「しかし!」

「命令だ、聞け」

「~っ!.....かしこまり、ました」

「2つ言う。まず、俺の命を大切にしろと言ってきたが俺は命を大切にしていなかったらここにいない」

「その話は関係ないと思うんですけど」

「聞けって言ってる。いいか、俺は今日みたいな状況を何度も味わった。何なら死んだこともある。斬られ、炙られ、殴られ、蹴られ、潰さた。でも俺は生きている。でも、耐えたこともある。炙られながらも無理やりゴブリンの喉を潰したり、殴られているときに少しでもスキができれば切り刻んでいたし、体中のありとあらゆる骨が折られていても無理やり動かして悪化させながらも撃ち殺した。もし俺が生きるという行動を大切にしていなかったらこの瞬間俺は死んでいる。そんな俺が耐えてきた行動を、簡単に否定するな」

「....すいません」

「あと、命に関してだ」

「変わっていない気がするんですが」

「全然違う。お前は、なぜ死にかけの自分を助けたのかと、自分は捨て駒だといった。確かに、俺は簡単お前を見殺しにできていたかもしれないし殺せたかもしれない。でも、俺はお前を買っている身だ。お前の命を保証しないといけないし、守り切らなきゃいけない。俺は人との奴隷の価値観が違う。でも、ほかのものと同じように命を買っていたとしても、そんな簡単に捨てていいものじゃない。俺は誰よりも死んで、痛みを経験していると断言できる。俺はやり直しができた。でも、お前はできない。自分の持っている命を助けて、自分の助けたい命を助けて、何が悪い。俺は、お前を買った身として。お前を、奴隷ながらも、幸せにする義務があると思ってるんだ。これはあくまで俺の感覚だが、そんな簡単に曲げてもらっては困る。お前は、買われていることに嫌味を感じていると思う。でも、こればっかりは俺の意見を否定して、自分の命を卑下することは、俺個人としても主人としても許さない」


俺は、心から出る気持ちをすべて言葉に変え伝えた。この感覚を伝えて、嫌われるかもしれないがしょうがない。そんなことを考えていると、ルーシーの頬は赤く染まりその頬には全く似合わない1粒の雫が零れ落ちた。思った反応ではないため、俺も「え」と情けない声がこぼれた。俺の口から言葉が出ることはなくただただ泣いている姿を見てタジタジするだけ。すると、泣いているルーシーは、口を開いた。


「す、すいません。こんな見苦しい姿を見せてしまって」

「あ、えぁ、いや。大丈夫、うん。気にしなくていい」


気まずい、気まずすぎる。俺は左手を左右に振り問題ないと言葉とともに表現でも伝える。見苦しい姿と言って、ルーシーは頬に垂れる涙を手の甲でふき取り、手のひらで頬を思いっきりたたいた。その顔は決意に満ち溢れており、若干頬の赤みも収まった。しかし、まだ赤いと言われたら赤くわかるくらいだ。


「私は、あなた様のために、あなた様だけにこの身を捧げ、生きていくことを誓います」

「それは買われた時から誓ってほしかったな」

「奴隷になったばかりなので、そんな簡単に主人を信用するにはいかないわけです」


ルーシーは、おそらく叩いたせいで赤くなった頬をこちらに向けて瞳は俺の瞳を捕らえ続けた。俺もルーシーの目を見つめた。すると、ルーシーは口を開き、今までにない信頼と安心をのせた声で、両手を組み胸に寄せ、俺への忠誠を誓ってくれた。わがままを言えば、正論で返ってくる。俺はまた1歩、奴隷と主人としての中を縮められたかもしれない。カランカラン、そんな音が鳴ったのは正論が返ってきて5秒後くらいだろうか。俺たちが微笑みあうと、それを狙ったように邪魔する音が洞窟の奥深くから聞こえた。俺はすぐさまルーシーから視線をずらし、洞窟の奥に目をやる。ルーシーも俺を追いかけるかのように洞窟の奥へと目をやった。


「ご主人様、どうしましょう」

「行こう、ここで待機しても暇なだけで。奥に行って調べたほうがいいだろう」

「その右手でですか?」

「もう再生しきるころだ、手首くらいまで来てるからとすぐ終わる。俺の生命力をなめるな」

「そう、ですか。わかりました、行きましょう」


俺は左手で体を起こすと、ルーシーに右腕についてまた聞かれた。負傷者がすることじゃないとわかってはいるが、じゃないと暇なので行きたい。という本心を心で閉じ込め、俺の生命力をなめるなと言った。ルーシーも「そう」の後、少し悩んだようにしたが、すぐに顔を起こして俺と同じように立ち上がった。


「行きましょう、絶対に死なずに」

「当たり前だろ、何のための今があるんだ?」

「そうですね」


ルーシーの行きましょうという言葉に当たり前だと賛同し、少しかっこつけて次の言葉を発した。それを真剣な眼差しとまじめな顔でそうですねを言い返されると、何か恥ずかしさが体中を回っていく。俺は視線を向けてくるルーシーに意識をできる限り向けないように奥がどうなっているかという思考に脳をまわすことにした。



ザッザッと地面の土と靴がする音が響く。歩き始めて5分近くが経過しただろうか。俺とルーシーは止まることなく歩き続け、洞窟の奥を目指し続けた。そろそろ音が聞こえた空間に着く頃かと考えていると、曲がり角の奥からうっすらだが光が見える。暗かったため、ルーシーの『自然看破』を使い道をたどり続けた。俺は光を見つけると、アルクから早歩きに変えて歩行速度を上げた。曲がると、70メートル位先に大きな空間があることが分かった。光が密集していることが分かるため、あそこが原因だろう。ゆっくりと歩き、数十秒をかけて空間に到着。その空間は、言葉での表現が以上に難しかった。どこからか来ているかわからない光、陥没していたり浮いている岩。骨だけの遺体と今にも死にかけの小さい生物。何もかもが俺たちの脳の思考の巡らせ方を変えてくる。そんな空間に驚いていると、空間の中でも奥の方から黒い粘液のようなものが現れた。

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