第24話 想定外で規格外

「今後ともこのギルドをご贔屓に」

「もしかしたら冒険者が本職になるかもしれませんけどね」

「それはこちらとしては大歓迎です、危険な依頼も受けていただくとありがたいです。それではまた」


そういうと、ギルド長室の扉は閉められた。俺の目の前には光り輝いている赤いカードがある。冒険者カードだ、ルーナは全くそういうのは見せてくれないがちゃんと身分証明書みたいな感じで使えるらしい。ルーナのを確認してみたが、光っている青い冒険者カードだった。冒険者カードには名前と冒険者ランクを示すカード自体の色、メイン武器のみが記載されている。俺は冒険者カードをバックの中にしまい、横を見るとルーシーと目が合った。


「どした?」

「私が住んでいたエルフの町では、DOUBLEダブルZゼータランクの冒険者は超危険人物とされています」

「え、どして?」

「私たちエルフは、良くも悪くも噂があります。闇の依頼、奴隷商人が高ランク冒険者がエルフを取って来いと依頼をするケースは少なくありません。だから、私たちはランクの高い冒険者は危険とみなしました」

「それって俺も含まれてる?」

「主人が何も言わずにあそこまで高ランクに慣れたことは素直にすごいと思います。しかし、奴隷としていうのもおこがましいですがそういう依頼は受けないでいただきたいです」

「....そっか、分かった」


エルフの話をしていると、はやり昔のことを思い出したのか徐々に顔色は悪くなっていき、奴隷としても主人には同じ種族を狩ってほしくはないと思っているらしい。さすがにそこまではしないが、エルフの町に行って安全にルーシーを届けてやりたいとは思っている。聞いていただけのルーナも顔色は悪くなる。俺に親とか親戚とかいないから気持ちがわかりずらいけど、なるべくルーシーの心に深く迫ることはやめておこう。


「とりあえず、依頼を受けてみたいんだ」

「高ランクいこ」

DOUBLEダブルSシグマくらいがいいな」

「私適正ギリギリ」

「俺がいるから、安心しろ。ルーシーも戦えるのか?」

「はい、ある程度は戦えるつもりです」

「そうか....ステータス見るか?」

「え、よろしいのですか?」

「一緒に戦うとして俺のスキルをある程度分かってた方が戦いやすいだろ?」

「そうですが」


初冒険者になったということで依頼を受けようと考える俺。初とは思えないがとりあえずDOUBLEダブルSシグマくらいがちょうどいいなと思っている。適正ギリギリと文句を言うルーナを無視してルーシーは戦えるかどうか。まぁあのステータス見ればわかるが。そうっすよね、いけますよね。そうか、ならステータス見せた方がいいか。そんな考えを導き出した俺はすぐさま口に出す。あってから初めてこんな驚いた顔を見せたルーシー。ルーナに見せた時も驚かれていたが普通じゃないのか?まぁ疑問は良いとして、正論を伝えるとまだタジタジしているルーシー。


「じゃあ命令だ、俺のステータスを見ろ」

「~っ!わかり、ました」

「はい」

「......」

「初見の人にシリルのステータスを見せるのは普通にやばいと思う」


階段を下りながら俺はステータスを表示。右下クリック。俺のステータスボードは半透明から青色へと変化し、ルーシーは座れるように俺のステータスを見た。すると、ルーシーは階段を下るのをやめた。俺もルーシーに見せなきゃいけないので一応止まる。ルーナさん、その言い方は素直に泣きますよ。


「正直、『不死身アンデット狂戦士バーサーカー』って言われている理由が少しばかりわかりました」

「自己蘇生がいい仕事してる」

「私も町の中でそこそこ強い部類でしたが、私のステータスを凌駕するほどの数値ステータス、桁外れのスキルの量、そして1つ1つのスキルのつ...呪い...削除?」

「あぁ、まだそれは研究中なんだ」

「それは、私の首輪も外せるってことですか!?」

「シー!静かに、あそこ座ってゆくっり話そう」


俺のステータスを吟味しながら見ているルーシーは、俺のスキルの1つ『呪い削除』を見た瞬間、言葉が詰まり研究途中だというと首輪も外せるかという可能性が頭によぎったのか俺にと詰めてきた。ほんとにわからない。ルーシーが食らっているのは呪いではなく呪縛、これを外すには多分スキルではなく魔法の方が有効だと思う。そういう意味で研究中といったのだが、やはり捕らわれている身これを見ると興奮もするだろう。俺は一回ルーシーを沈め、あそこで話そうと提案。依頼の前に会話をすることが決定する。受付の近くにある席に座ると、まだ興奮が抑えきれていないルーシーが身を乗り出して質問してくる。


「それで、私の首輪は外せるんですか!?」

「静かに、1回落ち着け」

「シリルは主人。静かにするのは命令」

「~っ!すいません、取り乱しました」

「大丈夫、もう1度言うがこのスキルは研究中だ。俺は呪いを消すこと、ルーシーの首輪は呪いではなく呪縛だ。俺のスキルがその首輪に対応するとは考えにくい。もしそれで失敗して傷ついたりしたらこっちが困る」

「そう、ですか。そうですよね、そんな簡単に外せるわけ、ないですよね」

「でも、もし首輪が外せるんだったら外してちゃんと俺らのの旅仲間になってもらおうかな」

「はい!その時はぜひ!」


取り乱し続けるルーシーを1度止めて、俺はある程度の推測と分かっていることを口にする。すると、明らかにシュンとさせ暗い顔をさせた。俺は一応エルフがいたほうが嬉しいわけなので、しっかり首輪外したら旅仲間になってもらうと約束を取り付けた。パァっと顔を明るくさせたルーシーは快く承諾してくれた。ちゃんと機嫌がよくなったことを確認すると、俺は席を立ち依頼紙を確認した。


DOUBLEダブルSシグマランクの依頼紙は全部で6つ、ランクが高いと依頼の量も圧倒的に少なくなってくるらしい。俺はとりあえず倒しなれている3つを取った。


依頼・南の森のエリートワイバーンの群れの討伐。約15体

報酬・金貨3枚

討伐証拠・ワイバーンの右上牙


依頼・キングゴブリンの群れの討伐。対数不明

報酬・ゴブリンの量で変動。最低大銀貨8枚

討伐証拠・ゴブリンの右耳


依頼・ハイドラゴン2体

報酬・金貨5枚

討伐証拠・頭


ハイドラゴンは狩ったことないが戦闘を見たことはあるので倒せると思う。俺的にはハイドラゴンの討伐に行きたいんだが、こればっかりはルーシーとルーナの意見も含めなきゃいけないからなぁ。


「ルーナとルーシーは何がいい?」

「ハイドラゴン」

「私もハイドラゴンがいいです」

「おぉ、俺もハイドラゴンがいいと思ってたんだ。早速だが、受付に行くぞ」


ゴブリンが来ると思っていたんだが、まさかの3人全員ドラゴンを選ぶという奇跡。いや奇跡とは言えないか、偶然全員の意見がかみ合ったため、俺は依頼紙を壁から外し受付嬢に提出した。初めて顔を合わせる受付嬢はルーナを見ると目を見開き、ちょっと固まった。『冷血の執行人ブリザードエグゼキューター』という異名がここまで響いているまであるな。


「こちらの依頼を受注ですか?」

「はい、問題ないです」

「かしこまりました。冒険者カードの拝見をしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「ありが....とうございます」


俺とルーナが冒険者カードを出すと、おそらく俺のカードを見て受付嬢は固まった。このギルドにはこんな高ランク冒険者がいたのかと驚いているのかもしれない。しかし、受付嬢の視線は冒険者カードの俺の名前の部分に1点集中している。さっきギルド長が言っていたが俺はうわさになっているから、そんなギルドの中で有名な奴が来たらびっくりするわな。


「『不死身アンデット狂戦士バーサーカー』?」

「あ、やっぱり知ってました?」

「それは、もう有名ですから」

「俺なんかよりルーナの方が人気度は高いと思うけどな」

「狂戦士と執行人ってなったらそりゃ私を選ぶ」

「その言い方で比べないでくれ」

「冒険者カード、拝見しました。ドラゴンの討伐は難しいので気を付けてください」

「心配ありがとうございます」


俺の異名を呼んだ受付嬢。頬を掻きながら聞くと、有名なのでと返された。ルーナの方が人気なんじゃないかと口に出すと、異名の部分で少しいじられた気がする。やめてくれ、バーサーカーの部分だけを切り取らないでくれ。拝見が終わると俺の手元にカードは帰還。


「じゃあ、早速行くか」

「うん、ジャンジャン狩ろう」

「ご主人様に従います」

「とりあえず、そんな簡単に狩れるもんじゃないからな。ルーシーは、魔法の支援をお願いしたい」

「分かりました」




「はぁ、はぁ、はぁ。クッソ...」


そういい、俺とルーシー、2人・・は近くに合った洞窟に身をひそめることになった。2時間前、俺たちは普通に南の森に到着。そこら辺をぶらぶらして、ゴブリンやらオークやらを倒しながら奥に言っていくと目的であるハイドラゴン3体に遭遇。こいつらは知能が相当発達しているため、群れることは少なくない。だが俺たちは群れていることに臆することはなかった。しかし、戦っている最中徐々に違和感を抱いていった。ダメージは与えている。与えているのだが、別に大きな技を使っていない俺たちの魔力と体力の消費が異様に激しい。俺たちの方が攻撃しているのに、こっちの方が息切れが激しい。俺はこれに気づいた瞬間に鑑定を発動。するとどうだろう。こいつらのスキルは俺たちではどうにもできないスキルだった。1体は『魔力吸収』、1体は『体力吸収』、1体は『ダメージ大幅軽減』。最初から鑑定していればもっと早く討伐できていたのに、疎かにしたせいで俺らは気絶寸前。俺もこのことに気づくのが遅れたせいで使えるスキルは極僅か。俺でもあと少しだとルーナとルーシーはもっと疲弊している。その瞬間、ルーシーが大けがをした。ハイドラゴンのブレスを食らった。もともとルーシーの装備は軽装なため、虫の息。俺はルーシーを担いですぐさまルーナと撤退した。雨が降り、視界と足元が悪くなる中はもちろん神は俺たちの味方をしてくれない。ルーナがこけた。その瞬間を逃すことはなくハイドラゴンはルーナ目掛けて口を開け突っ込んでくる。俺は身を徹してルーナを守った。ルーシーに牙が当たることはなく、俺の腹部と胸部にハイドラゴン本気の噛みつきが炸裂した。周りに血が舞い一気な出血で視界がゆがむ。俺はもうろうとする意識の中で何か言ってくるルーナに向けてギルドに行って救援を呼んでこいと叫んだ。何回だろうか。10以上は言った気がする。気が付けば、ルーナはいなくなり、俺はずっと噛みつかれている状態だった。俺は鎌を噛みついてくるドラゴンの眼球にぶっさし、まともにも動けない状態でバックステップを踏んだ。この状況で生き残るにはと必死に考えた結果、俺はルーシーを地面に横にさせ水の空間を作り絶対に破られないように強固にしておく。俺はちゃんと守れたことを確認して、『鬼神化』を発動した。そこから、どうやってハイドラゴンを倒したかは覚えていない。『理性凝固』が発動しようと、体の中の血液が足りず意識が朦朧とする中では無意味だ。


自我が残るころの俺は、右腕がない状態でうつ伏せになって地面に突っ伏していた。まだ雨はやんでおらず、周りにはドラゴンの死骸が転がっていた。羽がなく、首もない。目が潰されていて、所々に岩で潰されたような跡や炎で焼かれた跡があった。起きてみると、体中が痛くおそらくどこもかしこも折れている。死んで蘇生された方が楽だろうが、仕方がない。ドラゴンを触ってみるとまだ生暖かいため、殺して間もないのだろう。俺はルーシーのところに駆け寄ると、俺が守ったままキープしていた。俺は魔法を解除すると、左腕でルーシーを担いだ。まだ意識は戻っておらず、昏睡状態だ。すぐさま安全を取ろうとした。でも、まだ終わっていなかった。真上からエリートドラゴンが2体がおりてきた。俺は、ここで死を覚悟した。この状態で、勝つにはもう1度鬼神化、しかしここでまた倒れた場合ルーシーを殺してしまうことになる。俺は残った少しの魔力で『防御特化』を発動。そのまま逃げた。もちろん追ってくるが追い付かれないように全力で逃げる。ブレスを放ってくるが、耐久力が上がった俺に傷をつけることは困難だ。俺は残っている体力を全部振り絞りトップスピードを出す。すると、近くに洞窟があることを確認。俺は『防御特化』を解除し、『気配遮断』『無呼吸』を発動。ピチャピチャと俺の走る音が聞こえるが周りは大雨なためその足音とは相殺。俺は洞窟の中に入ると、入り口に岩魔法で岩を作成。入ってくることが不可能だと確認した俺はスキルをすべて解除した。


「はぁ、はぁ、はぁ。クッソ...」


右腕は肘くらいまで自己蘇生が働いており、鎌れば部分はまだ出血が止まらない。俺の過呼吸の音と雨の音が、俺の脳を刺激し続けた。

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