第5話 独角竜と神鷹
アラーン
イマハの師、スモル・マファ。痘病を恐れず、優れた霊力を持つ祈祷師だった。
シホテアリン山脈の北に生まれ、
スモル・マファには強い神霊がいた。それは
あるときマリンカ・ダドに横心を抱いた官人がいて、「商品が欲しければ服を脱げ」と言った。怒ったマリンカ・ダドが、神霊に願って官人を懲らしめようとしたところ、スモルが通りかかった。スモルは、マリンカ・ダドが商品の対価を持っていなかったのだと思い、自分の貂皮で商品を買い取り、それを彼女に与えた。
マリンカ・ダドは、スモルに一つの予言を与えた。
アラーン
間もなくミミズクの旗を掲げたツァーリの兵がやってくる。
彼らは鉄の道を築くために北の大地からやってくるが、数多の痘病を連れてくる。痘病は赤いまだらの服を着た
物の交流が途絶えると、人の営みは廃れる。満州仮府からは官人が去り、文物が失われる。
お前には疫神の祝福を与えよう。十年間は痘病を恐れなくてもよい。
ハリララ ハリリ ハレイ
マリンカ・ダドは疫神を呼び、スモルの腕に小さな鱗の祝福を残した。
スモルが荷役の仕事を終えて村に戻ると、郷長の屋敷で村の人々がたくさんの酒を飲み、毎日宴会をしていた。聞けばツァーリの兵がやってきたので、食べ物を分け与えたところ謝礼にたくさんの酒をもらったというが、ひとりスモルは愉しまなかった。
それから間もなく村には痘病が跋扈した。スモルの父母も兄弟も姉妹も、死者の国に連れ去られた。痘病を恐れた人は山に逃れたが、臆病な者はしばしば礼儀を忘れ、誇り高い虎にその身を食べられた。村には誰もいなくなり、そこにツァーリの兵がやってきて、ミミズクの旗が翻った。
村に残った最後の毛皮を犬橇に積んで、スモルはデレンの満州仮府に運んだ。しかし春になり夏になっても満州仮府の官人は来なかった。代わりにツァーリの兵がやってきて、酒と引き換えに毛皮を欲しいと言ったので、スモルは酒をもらわず毛皮を全部与えてやった。
最後にやってきたのはマリンカ・ダドだった。ウスリー川の東側にたくさんのツァーリの兵が入り込み、痘病が跳梁しているので助けに行きたいと言った。そこでスモルは、犬橇で彼女と相乗りすることにした。
果たして、そこでは病と飢えがブシュクのように人々を蝕んでいた。川に出て魚を取ろうとするとツァーリの兵に撃たれるので、漁期にも関わらず船底には藻が絡んでいた。
偉大な祈祷師マリンカ・ダドはたくさんの村を訪れた。九頭の犬を操ることのできるスモルは、デレンからハンカ湖の間をわずか十日で行くことができた。そのためマリンカ・ダドはたくさんの村に祝福を与え、たくさんの人を痘病から救った。
アラーン
何年かたった秋と冬のはざまの頃、スモルとマリンカ・ダドはビキン川のほとりを犬橇で走っていた。
風が強く、雲が流れ、吹雪になりそうな黄昏だった。不意に枯木が凍って弾けるような音が何度か響いて、犬が吹き飛んだ。マリンカ・ダドが「止まるな」と言ったが、スモルは枯れた葦の茂みに犬橇を止めた。犬を確かめると、無事な犬が三頭、死んだ犬が三頭、けがをした犬が三頭いた。
マリンカ・ダドは葦の茂みの向こうを杖で示した。「あそこに悪い者がいる」
そのとき銃弾が飛んできた。マリンカ・ダドを狙っていたが、それを庇ったスモルの胸に当たった。スモルは倒れて死んだ。
たちまちマリンカ・ダドは神霊に願った。神帽・神袴・腰鈴・神刀・神鼓・護心鏡。マリンカ・ダドは舞い跳んだ。銃弾が飛んできたがひとつも当たらず、ついに飛んでこなくなった。悪い者は一人残らず死んだ。
次にマリンカ・ダドは葦で仮小屋を作り、持っていた食料をたくさん並べた。犬たちは死んだスモルの周りを囲んでいた。マリンカ・ダドは死者の国に行き、
取り戻した魂は肉体に戻さなければならない。マリンカ・ダドは神刀で撫でてスモルの傷を治した。それから魂を肉体に戻すため、スモルの妻になった。
その夜は吹雪になった。
アラーン
朝になり雲が去ると太陽が昇った。スモルは目を覚ました。自分の身体には傷一つなかったが、周りで九頭の犬が死んでいた。神帽・神袴・腰鈴・神刀・神鼓・護心鏡があったが、マリンカ・ダドはいなかった。
太陽の陽ざしを遮って、三尺の純白の翼がスモルの頭上をよぎった。ひらりと舞い降りた神鷹こそ、
妻の加護を受けたスモルは、こうして祈祷師になった。
痘病を鎮める
ハリララ ハリラ ハリラ ハリララ ハリリ ハレイ
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