第20話 ミス食いしん坊

 第三問は、なんだかふざけた質問だ。

「じゃじゃーん!『たい焼きはこし餡派?』」

 本心は粒あん派だ。あんまんはこし餡派だけど、たい焼きはあのゴロッとした餡が美味しいんじゃないか。青いクッキーを選ぶと、残りのノーが三つ……いや、赤いクッキーでも同じことか。

「わぁ! 私と同じだ!」

 青いクッキーを食べる私に、紗和さんが感嘆の声を上げる。どっちでもいいだろ。そもそもこし餡のたい焼きには出会ったことがない。紗和さんはこし餡たい焼きと運命の出会いでもあったのか。

 そして、第四問はもっとどうでも良かった。

『ゆで卵は半熟派?』

 何だ、なんだこの質問は。十個しかない質問のうち二つがたい焼きのアンコとゆで卵の硬さかよ。どう答えてもいいだろう。半ば呆れてしまっているが、実際に半熟派なので、残り枚数が多い赤いクッキーえ必然的に選んでいく。迷いようがない。ちなみに紗和さんは固茹で派らしい。たまごサンドの半熟卵は許せないんだとか。本当にどうでもいい。

 折り返しの第五問。そろそろ来るのか? エッチな質問

「じゃじゃーん!『紅茶はミルクティーよりレモンティーの方が好き』」

 食べ物の嗜好の質問が続くなあ。質問の無駄遣いなんじゃないのか? もしかしたら、今後私が訪問する時のもてなしの参考にするだけ? ていうか、そんなに食欲があるように見えるのか?

 残りのクッキーは、赤も青も三枚ずつ。食べ物の嗜好で終わるのか? 深く考えても、残りの質問は全く想像できない。次は好きなおにぎりの具でも聞いてくるのだろうか。梅昆布が一番好きだけど。

 考えても仕方がないので、ミルクティーが好きだから青いクッキーを選んだ。実際、今日も紗和さんにアイスミルクティーをリクエストして、それを飲んでいる。紗和さんはというと、この前のチョコを使ってアイスチョコミルクをストローを使わずにグラスに口をつけて飲んでいる。よく太らないなあ。栄養が胸に集中しているのだろうか。


 とりあえず、半分の質問は答えた。学校は楽しい、受験勉強中はアルバイトを中断する、たい焼きは粒あん派、ゆで卵は半熟派、レモンティーよりミルクティー。青いクッキー、つまりノーを一枚先行して答えている。赤いクッキーも青いクッキーも同じ味かと思ったら、青いクッキーの方が若干甘い。というか、赤いクッキーは甘いんだけど少し苦味がある。気のせいかもしれないけど。


「じゃあ、第六問! じゃじゃーん!」

 紗和さんが選ぶ時間をおかずにカードを出した。第六問は決まっていたのかな。

『クッキー以外の物も作って欲しい?』

 本当に私は食い意地が張っているように見えるのだろうか。……あ。今私と紗和さんの間では【クッキー】は名前ともう一つの意味を持つことに気づいた。正しくは【クッキーを食べに行くからチョコを手土産に】だ。それはつまり、裏を返すと……どうなるんだ? クッキー以外の物を食べたい。とは、エッチな事抜きで紗和さんと過ごしたい。という意味になるのか?

 クッキーは美味しい。お菓子作りが好き……とは聞いていないが、突然の訪問でもクッキーをこれから焼くと言い放つ紗和さんだ。お菓子作りが得意なのは間違いないか。お菓子作りの研究のために、クッキー以外のお菓子の味見に付き合ってくれ。とも受け止められる。でもそれもエッチ以外で紗和さんと過ごすことを意味する。悩む必要もないか。実際にクッキー以外で紗和さんが作るお菓子にも興味がある。赤いクッキーを選ぶべきだろう。そもそも青いクッキーを選ぶのは紗和さんを傷付けることにもなるかもしれない。

「フフフ。嬉しい!」

 語尾を軽く上げ子供っぽく笑う前で、私は赤いクッキーを食べている。次の質問は何だろう。第六問を終えて、残りのクッキーは赤いのも青いのも二枚ずつになっている。また食べ物の質問かな。アンコと飲み物の質問は出た。他のお菓子としてすぐに浮かんだのはケーキの嗜好。果物の質問も考えられるし、ゼリーやプリン……マカロンもあるか。意外にカレーの辛さの質問かもしれない。ふとカードを確認したら『紗和さんのクッキー以外の物を食べたい』と書いてある。お菓子とは書いていない。

 何だろ。なんか「毎朝お前の作った味噌汁が飲みたい」ってベタな愛情表現が浮かんだ。後になって思えば、その昭和な表現が浮かんだ時に、その後の質問の傾向のヒントになっていたんだ。後悔してももう時間は戻らない。

「フフフ」

 紗和さんが楽しそうに笑う。そう。紗和さんが楽しそうにしている時は、私に悪い事が起きそうな時だ。その時は違和感はなかったんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る