第3話 考え事
「ヒナー……ヒナ?」
「あ、ああ。ごめんごめん。ちょっと考え事してて」
結菜の問いかけへの反応が遅れた陽向は、浮かない表情をしていた。
「大丈夫ぅ!? 皺が増えるよ?」
「十七歳のおでこに現れる皺があったら、一度見てみたいね。てか、皺なんてないし」
「あはは」
「あはは」
どうしたら紗和さんに仕返しできるのか。昨日からそればかり考えていた。でも、学校では……少なくとも友達の前では忘れた方がいい。そう思った陽向は、休み時間を楽しく過ごすことにした。
「で、なんだっけ」
「いやいやユイゾー。忘れんなし」
「あ。そうそう。ここちゃんがカラオケ行こうって」
「え!うん。行こ行こ!」
ここちゃん。宮本こころを呼ぶときは大体そう呼んでいる。岩城結菜、宮本こころ、私(坂元陽向)の三人で遊ぶのは楽しい。ここちゃんとは一年生の時に同じクラスで仲良くなり、二年生になっても同じクラスになれたので仲良くしている。肩まで伸ばした髪は手入れされていて、同い年なのにスタイルが全然いい。たまに男子が下ネタを大声で話しているときも、ここちゃんの話題になる。もちろん本人の居ないところでだが、こころの胸を後ろから揉みまくりたいとかこころにならハイヒールで踏まれてもいいとかの発言でゲラゲラ笑っている。はっきり言ってキモい。あいつら全員、一生彼女ができない呪いでもかかればいいのに。
「じゃあ、いつものところに行こうねっ!」
結菜が陽向に笑顔を見せる。こころは大人っぽいのに、同じように髪を肩まで伸ばしている結菜は幼く見える。こころと違うのは、くせっ毛のせいで子供っぽく見えるのかもしれない。身長も三人の中で一番低く、体育の時間に更衣室で見た結菜は、身長と同じく胸も控えめだった。自身もそれをコンプレックスにしているので、結菜の前での胸に関する話題は私もここちゃんも避けている。それでも可愛い女の子の部類に入ることは間違いない。一学年上の先輩が結菜に告白したというのが、学校中で噂になっていたことが一時あった。結構かっこいい先輩だったはず。本人に聞いてみたらはぐらかされたけど、付き合ってはなかったと思う。でもかっこいい先輩に声をかけられるほど、結菜は可愛い。
私はというと、あまり言いたくないが地味な女の子だと思う。コンタクトが苦手で小学生の頃から眼鏡をかけているし、顔だって可愛いとは思えない。髪もずっとショートにしていて、あまり朝はいじらないからボサボサの時もある。二人は私のボブを可愛いと言ってくれるが、タイプが違う二人の美少女に可愛いと言われても本当かどうか疑わしい。運動らしい運動もしていないから、多分ウエスト周りだって二人より大きいはず。二人と比較すると、どんどん惨めになりそうだ。
三人で待ち合わせたのは、カラオケ店の入り口だった。カラオケと言えばこの店。三人の間で申し合わせることがなく決めることができるのはたくさんあるけど、カラオケ店もその一つだ。ナンパ禁止を強く打ち出している店だから、女の子同士でも安心して使うことができる。そろそろ半袖がほしくなった五月の終わり、夕暮れまでカラオケを三人は楽しんだ。
家に帰った陽向は、やるべきことがあった。紗和さんへの復讐計画のことだ。
先週までは憧れるほどの女性の魅力があったあの女。あの笑顔も優しさも嘘なんだ。もうあの店のアルバイトも辞めてやろう。目的と理由を考えたら、別にドロシーにこだわる必要もない。他のアルバイトで可愛い物に囲まれて、好きな服が買えるバイト代を貰う。そして一番優先しなければならない条件は、痴女がいない。そんなアルバイトは探せばすぐに見つかるだろう。
だから、アルバイトを辞める前提で考えてみよう。アルバイトを辞めるから、その先紗和さんと顔を合わすこともない。それなら……
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