第17話 ウィズvsヒョウカ1
「俺には戦士(えいゆう)ミノタウルスと使役獣最強の種族、魔龍(ヒョウカ)がいる。それに対して貴様は魔術師(ウィザード)のウィズのみ。新たに使役獣を顕現させる力も残っていない。貴様が俺に勝てる確率は限りなくゼロパーセントだ」
(わざわざ聞きたくもない状況解説、ありがとうよ)
「む、そんなのやってみないとわかんないでしょ」
「やってみなくてもわかってる。一目瞭然」
ヒョウカの手にはヒツジの胸を貫いたモノと同じ水色の槍が握られていた。
(魔術師(ウィザード)は確かに使役獣の中ではレアな種族だが、所詮魔龍(ヒョウカ)の敵ではない)
この圧倒的有利な状況下でシオンはもう一度ユウトにあの提案を持ち掛けた。
「今ならさっきの話の答えをもう一度聞いてやってもいいぞ」
(さっきの話――)
ユウの脳裏にさっきのシオンの冗談が浮かび上がった。
『俺のモノになれ、絆優人(きずなゆうと)』
(あの事か)
ユウトはシオンの口から初めて聞いた冗談を思い出し、フッと笑った。
「冗談だろ」
ユウトの答えが変わることはない。
「そうか…………残念だよ」
ユウトの答えを聞き、シオンはヒョウカに指示を出した。
(行け、ヒョウカ)
(頼んだ、ウィズ)
ユウトもまた、ウィズに指示を出した。
同時に動く、ウィズとヒョウカ――
「うわ、ちょ、まっ、あぶな、い」
今までの敵――アキレスやスピリッツオブゴートと違い、空中戦もできる龍の翼を持つヒョウカは空気中の水分を凍結させた氷の弾を放ちながら、執拗にウィズの後を氷の槍を構えながら追いかけ回した。
「ちょこまかちょこまかと、ハエみたいにうっとうしい」
「うえぇぇ、そんなこと言われたって」
ご自慢の永久凍土の槍を何度も躱され徐々に苛立つヒョウカ。
(意外と素早いな)
的の小ささと翼よりよりも小回りの良い魔力を使った空中浮遊により何とかヒョウカの嵐の様な攻撃を躱し続けるウィズ。
(ユウトこれいつまで耐えればいいの)
(何とかこのまま耐えてくれウィズ、必ずチャンスは巡ってくるはずだ)
(そうは言ってもぉおおおおおおおおお)
中々攻撃を当てられず、業を煮やしたヒョウカは槍を大振りに横なぎに振ってしまった。
「うわぉ」
間一髪、背中を弓なりに反って槍の先端を躱したウィズは槍を大振りに振ってしまい隙だらけの姿をさらすヒョウカに向け、初めて攻撃を放った。
「ファイヤアアアアア」
「火っ」
ウィズは杖に埋め込まれたクリスタルに閉じ込めていた炎をヒョウカに向け全て解放、ヒョウカの全身が炎に包まれた。
「ぎょえっ」
同時に、ウィズの鳩尾を氷の塊が襲い掛かった。
「大丈夫か、ウィズ」
「な、何とか」
咄嗟にヒョウカが放った氷の弾丸にかなりの深手を負わされてしまったウィズ。
それに対し炎に全身包まれたヒョウカは、両翼を勢いよく広げ風圧を発生。ヒョウカはあっさりと自身に纏わりつく炎をかき消した。
(あの杖のクリスタル、一時的に物質を保管することが出来るのか)
ほんの数秒とはいえ、全身を炎に包まれたヒョウカだがソウマはそんなヒョウカを全く心配することなく、冷静にウィズの持つ魔道具についての分析をした。
(ユウト、火はこれで打ち止めだよ)
(さすがに火力不足か)
ヒョウカはウィズの放った炎が守りの薄い人間体の体に飛び移らないよう翼とうろこで覆われた足と腕で受けた。
結果、ウィズの解き放った炎はヒョウカに掠り傷一つ与えることはできなかった。
(隠し玉の一つや二つは持っているか……下手に遊んでいると足元を掬われかねないな)
この一見無意味だったと思えるウィズの攻撃が、今までずっと一歩引いたまま戦況を傍観し続けていたシオンの足を一歩、前へと動かした。
(前戯(ウォーミングアップ)はここまでだ。ヒョウカ、全力でヤレ)
(わかった)
突然、ヒョウカの頭から生えた角が淡い光を放ち始めた。すると、ただでさえ低かった室内の温度がさらに急落。
「うわっ」
「何だっ」
壁や床、室内にあるありとあらゆるモノが急低下した部屋の気温で凍りつくだけでなく、その表面を空気中の水が凍った氷で覆いつくした。
そして、華奢だったヒョウカの体が突如何十倍にも膨れ上がり、腕と足を覆っていたものと同じサファイアのような美しい鱗が巨大化したヒョウカの全身を覆った。
「龍化百パーセント」
完全龍化。
ワイバーンのように魔を操ることが出来ない龍と違い、ヒョウカのように魔を操れる龍には三種類の形態が存在する。
人間と見た目が全く変わらない人間体。人間体の一部分を龍化させた半龍体。そして魔龍本来の姿でもあるすべてを龍化させた完龍体。
今目のユウトたちの目の前にいるのは魔龍ヒョウカ本来の姿である。
「ここからが本番ってことか」
気温がマイナスとなった室内でユウトとウィズは額から一筋の汗を流した。
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