4.空の終わりと宙の始まり

 この事態の解決に寄与したのは、意外にもより古く、魔法飛行船より単純な航空技術であった。


 即ち草原小人猛虎族モンゴ・ル“空見の”フィエが見出した、気球そのものである。


 当時の飛行人形は事前命令の制限から高空での環境変化に耐えなかったが、設計を洗練し気球に観測人形を搭載する事で、高高度の観測が可能となったのだ。


 ここで人類は初めて高空での大気の希薄と気温の変動、そして空気のある空の上には真空の宙がある事を知ったのである。


 そしてそれは同時に転移魔法で月に直行しようとした魔法皇国の実験が失敗に終わった理由でもあった。魔方陣を中心とした吸引現象は、真空の月に空気が吸い出された結果だったのである。


 ここに、航空魔法から、航宙魔法の歴史が始まった。


 気密、世界回転力、宙達速度、宙害線、熱……気球で得た観測データを元に知力増強魔砲による演算を行い魔法学は長足の進歩を為した。


 幾度かの魔法具アイテムのトライアルが繰り広げられた。


 山人ドワーフは計り直された計算から再設計したマウントヤードに拘ったが、遂に改造の繰り返しの末魔砲の反動が山人ドワーフへの魔法強化の限界を越えて頓挫した。最終的にこの方式は非生物を大気の無い環境から大気圏のある環境に送るのに用いるのであれば有効であったのであろうとされ……後にマスドライバーと呼ばれるようになる。


 森林連合王国は、自分達のアイディアは現行の魔法水準では不可能であったと結論づけた。……こちらのアイディアは後に軌道エレベーターと呼ばれる事になる。


 魔法皇国の転移魔法も、やはり大気の中と真空の問題を越える事が出来ず、将来的に真空の宙を彼方まで見つめる目を持ち、星の海を渡るときまでは実用は難しいだろうと言われた……これは後にワープと呼ばれるようになる。


 それら、この時は失敗とされ、後々で用いられる知恵の蓄積の果て。


 今の目的……空を越え宙に至る術がどれかを、人類は見定めていった。

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