大文字伝子が行く152

なぎさ副隊長の決心

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

　大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。

　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

　夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

　須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

　金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。

　馬場力（ちから）3等空佐・・・空自からのEITO出向。

　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

　浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。

　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

　安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

　日向さやか（ひなたさやか）一佐・・空自からのEITO出向。

　飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

　稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

　愛川静音（しずね）・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

　工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。

　江南（えなみ）美由紀警部補・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

　伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。

　葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

　越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

　小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

　下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

　高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

　馬淵悦夫・・・マトリ捜査官。筒井が一時配属されていた時に一緒に捜査していた。

　青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

　井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。オスプレイの操縦も担当する。

　草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。警視庁から出向の特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

　渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当の事務官。

　物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友の妻であった同級生逢坂栞と結婚した。

　辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。

　物部（逢坂）栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。蘇我と学生結婚したが死別。物部と再婚した。

　福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。今は建築事務所に就職し、演劇活動は休止している。

　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署生活安全２課勤務。

　久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。凶悪事件の交渉人を担当することもある。

　MAITO班長名越・・・空自のMAITOチームC班班長。

　駒根・・・遊園地支配人。

　内山・・・遊園地乗り場責任者。

　柴田管理官・・・警視庁管理官。久保田管理官と交代で『交渉人』をしている。

　藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。元料理教室経営者。EITOの監視システムの端末を置き、準隊員扱いされている。

　大文字綾子・・・伝子の母。高遠を婿殿と呼ぶ。伝子に「クソババア」と言われることがしばしば。

　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

　午前11時。 喫茶店アテロゴ。

《

　今回は序の口だ。アルフィーズ

　》

《

　大胆なことする奴がいるねえ。僕とは関係ないよ。

　まあ、EITOにとって。小物だな。

　》

　コラージュのサイトの動画と、Tick Tackの動画。

　高遠と、物部と栞が、そして、辰巳がタブレットで観ている。

「大阪支部の事件は、ダークレインボーと関係ないのか。」

「だって、オクトパスが、そう言ってるじゃないの。」と、栞が言った。

「共通しているのは、闇バイト。捕まった何人かは、あっさり自供したそうです。お金貰って、『何か騒ぎを起してくれ』というバイトを前払いで請け負った、と。」

「詰まり、爆破された、くまた神社・・・だっけ？そこを爆破する為の陽動か？何か恨みでもあるのかな？アルフィーズって、どっかで聞いたことあるな。」

　物部の疑問に辰巳が答えた。

「マスター。アルフィーズの冒険ですよ、アニメの主人公がアルフィーズ。」

「ふざけたネーミングだな。ダークレインボーもふざけてるが。」と、物部は呟いた。

「リーダーが捕まったけど､えだは会、まだダークレインボーの生き残りがいるのかも。辰巳君、お代わり。」と、高遠は言った。

　辰巳は、お代わりのコーヒーを運びながら、「コラージュって、絵画とかの用語ですよね。」「うん。糊張りって意味だね。素人参加型の動画サイトだね。会員制らしいよ。」

「え？じゃあ、大阪府警は会員になったの？」と、栞が尋ねた。

「まあ、仕方無くね。まあ、サイトから犯人に辿り着けないでしょうね、証拠がないし。」

「後、2日か。約束守ってくれるのはいいが、何が起こるか分からないようじゃ防げないよな。」

　物部の言葉に高遠は頷くしか無かった。

「ここが、たまり場その2か。汚い喫茶店でなくて良かった。」と言いながら、老婦人が入って来た。

「須藤医官。」と、高遠が驚いて言った。

「亭主。コーヒーを頼む。アイスじゃなくて、ホットだ。」

　店内にピリピリと緊張感が走った。

「おい、婿養子。」「はい。」「お前、婿養子だから、大文字に遠慮してんのか？」

「いえ。」「じゃ、もっと真面目にやれと、言ってやれ。」

「どういうことでしょうか？」「また、前線に立っただろう？」

　高遠は、スピーカーの件を話した。「伝子は、指令室にずっと、いました。録画、観たんですか？副部長。反省会の材料にする為に、戦闘になる場合は、衛星録画することになったんですよ。」

「そうなのか。すげえな。」と、物部は感心した。

「ユニフォームもインカム内蔵になったので、実際の戦闘の際の指揮は基本的に、なぎさちゃんやあつこちゃんがやってるんです。敵対する相手の前では、影武者の日向さんや伊地知さんが、しゃべっている振りをして、伝子がアテレコするんです。」

「そうなのか。大文字は号令かけるだけでなく、指令室から遠隔で闘っているようなものか。ん？なぎさちゃんやあつこちゃん？」須藤は感心している内に馴れ馴れしく言う高遠を不審に思った。

「お前、それ、セクハラじゃないのか？」「須藤先生。大文字は『義理の姉妹』として、『おねえさま』と呼ばれているんです。高遠は、その『義理のおねえさまの夫』だから、『おにいさま』と呼ばれるようになったようですよ。」と、物部が弁護した。

「それで、なぎさちゃんにあつこちゃん、か。気持ち悪い。いい年して、きょうだいごっこか。ふん。亭主。お代わりだ。」

　辰巳が、笑いをこらえながら、須藤にお代わりを持って来た。

「じゃ、マスター。配達行ってきます。」「うむ。代金は月末でいい、って言っておいてくれ。」「了解しました。」

　辰巳が出て行った後、「副部長。配達するようになったんですか？」と、高遠が尋ねると、「うむ。モールの端っこにデザイン事務所が入ったろ？栞も店手伝ってくれるようになったから、昼休みの時間だけど、配達するようになったんだ。」と、物部が応えた。

　30分ほどして、須藤は帰って行ったが、辰巳は、なかなか帰って来なかった。

　その頃。

　午後0時40分。モール外れの、最上デザイン事務所。

　少し手前に本部が設置され、柴田管理官がメガホンで交渉をしている。

　愛宕や橋爪警部補が野次馬整理に当たっていた。

「愛宕さん。」「ああ、高遠さん。」「立てこもり？辰巳君、ひょっとしたら？」

「ああ。あの人質は辰巳君でしたか・・・どうぞ。」

　愛宕は数秒考えて、柴田管理官のところへ、高遠を連れて行った。

　途中で、「入れてくれ。俺は、あの会社の者だ。」と言う声がした。

　2人は顔を見合わせて、その人物も連れて行った。

「管理官。人質は、喫茶アテロゴの店員の辰巳君のようです。それと、あの会社の社員だそうなので、連れて来ました。」

　その人物は、名刺を差し出した。『最上デザイン事務所　営業部長　神代哲也』とある。

「実は、神代さん。犯人の要求は、社長なんですが・・。」と、柴田管理官は言った。

「社長は今、海外出張中です。私が行きます。」

「管理官。僕がお連れします。」「分かった。気をつけてな。EITOには連絡済みだ。」

　柴田は、愛宕の勇気に感心しながら、メガホンを渡し、託した。

「社長は留守なので、営業部長の神代さんを連れて行く。まずは、人質を開放してくれ。」

　犯人は、人質である辰巳をドアの外に出した。

　神代が入って行こうとした時、ドアは大きく開いて、閉まらなくなった。

　稲森が、ロープを投げ、陰から引っ張ったのだ。

　素早く、神代を押しのけて入ったのは、女性警察官姿のあつこだった。

　犯人の両手を後ろに回し、愛宕から受け取った手錠をかけた。

　あつこが犯人を連行しようとした時、電動キックボードで現れた集団が、襲って来て、犯人を連れ去ろうとした。

　咄嗟に愛宕は、事務所に犯人と共に入った。

「舐めんじゃないわよ。」と凄んだ、あつこに「助太刀するわ、おまわりさん。」と、陰から稲森が現れた。

「助かるわ。エマージェンシーガールズ。」と、あつこは目配せをした。

　あつこは電動キックボードで体当たりしてくる者を警棒の一撃で倒した。

　稲森も、バトルスティックで対抗した。

　2人は、空の電動キックボードを操り、10人近くいた集団は、瞬く間に地面と『仲良し』になった。

　野次馬の中から拍手が起こった。

　午後3時。伝子のマンション。

「犯人は昔、あの事務所を解雇されたバイト君。火事になった時、立場の弱いバイトが解雇された。自己退職扱いでね。しかも、他にも3人バイトはいたんだが、彼だけフルタイムバイトだったからという理由で解雇された。人事権は専務が握っており、営業部長は庇ったが、解雇になった。会社が持ち直したら再雇用するという約束は守られなかった。会社に放火したのは、彼が働く前にバイトしていた子。そこで、闇サイト。心に闇を持っている人間は乗せられやすい。あの電動キックボード集団は、闘争する際に手伝うという段取りだったらしい。逮捕連行されそうになって飛び出して来たらしい。」

　高遠の説明に、「電動キックボードって最近流行ってるけど、事故も多いんでしょ？高校生の集団？」と、綾子が言った。

「それが、30前後の男達。皆、仕事場で冷遇、詰まりパワハラやリストラされた経験があるらしい。犯人の男森田は、『一言謝って欲しかった』と言ってます。凶器は果物ナイフって報道されてるけど、『これじゃ鉛筆削るのも難しいな』って、橋爪警部補が言ってましたよ。錆びてて欠けてて・・・どうせなら買えば良かったのにね。集団は、森田に同情して集まった。電動キックボードは、通勤に使ってたから、楽に乗りこなせた。森田が簡単に今の事務所に入り込めたのも彼らが協力していたから。出前が来るのは調査済みで、そこに辰巳君がやって来た。」

　高遠の説明が終ると、洗濯物を綾子と片づけていた伝子が、「辰巳君、PTSDにならないかな？って物部に言ったら、武勇伝に変えて吹聴しているらしい。」と笑った。

「おやつにしない？こんなのしか無いけど。」と言いながら、藤井が入って来た。退院したので、もう森はいない。

「みかんか。大きいね。頂きます。」と言って、伝子はパクパク食べ始めた。

　藤井と高遠と綾子も釣られて食べ始めた。

「ところで、オクトパス、約束守るのかしら？黙って、何かやらかしてないの？伝子。」

「さあ。どうかな。ただ、しゃくに触るがヒントがないと、ウチのエーアイも活躍出来そうに無い。」

　エーアイとは、人工知能のAIではなく、高遠に名付けられたあだ名である、Advisory Intelligenceのことである。以前はAnother Intelligenceの略とされたが。

　EITOのアラームが鳴り、EITO用のPCが起動した。警報は『アラート』を使うことが多いが、高遠は御池都知事が嫌いなので、アラームの方を使っている。

「みかんか。口に唾が溜まりそうだな。如月遊園地で、ジェットコースターが上部で止まった。消防も陸自も出動したが、EITOにも出動要請が来た。今、一佐がオスプレイと共に向かった。よろしく頼む。」

　夏目の言葉に、皆敏感に反応した。

　伝子が台所にスタンバイすると、ロープが降りて来た。瞬く間に、伝子は空に消えた。

　見送った後、藤井が言った。「また、鬼女医に叱られない？」

「出掛けること自体は、胎教に良く無い可能性もあるけど、向かうのは、EITO本部だよ。現場の指揮は、なぎさちゃんだな。」

「なぎさちゃん？」綾子と藤井は顔を見合わせた。

　午後4時半。東村山市。如月遊園地。

　大きな農園が多い土地だが、その一つの農園主が、遺言で造らせた遊園地で、小規模の遊園地になるが、ジェットコースターは有名である。

　専門の技師が必死に操作室で修理を行っている。点検ミスなどではなく、弄られた形跡がある。

　消防で幾つか救命マットが用意されたが、そこに落ちるかどうかは分からない。はしご車のはしごは、途中までしか届かない。逆さの宙づりは前代未聞だ。もし、シートベルト、いや、安全バーに細工されていたら、一巻の終わりだ。

　なぎさは、MAITOに依頼して、いざという時の「捕獲ネット」を用意させた。

　MAITOとは、Mighty　Air Self-Defense Force　independent　Against Terrorism Organizationの略である。長いから、正式名で呼ぶ者は滅多にいない。前田空将の命名だが、面倒くさいからである。

　なぎさはMAITOのC班班長という、名越に挨拶をされた。

　そして、ホバーバイク5台を待機させた。ホバーバイクとは、民間開発の『宙に浮くバイク』だが、EITOが採用、それを改造して常備している。

　ジェットコースターは、故障はさせられたが、幸い爆発物は操作室には見つからなかった。

　池上医師によれば、血が逆流すると、何時間も持ちこたえられないらしい。近隣の救急病院に受け入れ体制を依頼した救急隊長が救急車から出て、なぎさに言った。

「持久戦ですかね。一番いいのは、コースターが一時的にも動くことだが・・・。」

　そこへ、乗り場責任者の内山と遊園地支配人の駒根がバイクでやってきた。

「故障が完全修理できなくても、手動で動かせるようになったら・・・。みちる、修理担当者にブレーキのシステムが使えるかどうか確認してくれ。」と、なぎさはインカムで指示した。答はすぐに返って来た。

「エンジンがおかしいので、稼働は出来ないが、ブレーキ部は壊れていない、と言ってるわ。」

　なぎさは、インカムを通じて、伝子に確認した。「おねえさま。500メートル程先に、クレーンが見えます。何とか使えませんか？」「了解した。少し待て。」

　5分しない内に、伝子から返事が来た。「解体工事のクレーンとショベルカーを借りた。オペレーターがいないが、キーは付いている。取りに行けるか？」「取りに・・・ですか。」

「副隊長さん、どうぞ、このバイクを使って下さい。」駒根は言った。

「ありがとうございます。大町、田坂。お前達は、このバイクをお借りして解体工事現場に移動。クレーン車とショベルカーを運べ。」

　2人はバイクに跨がり、出発した。

「それと、コースターのストッパーにするのなら、施設の端で工事中のトラックも使って下さい。ウチの所有です。

「浜田。安藤と行って、トラックをお借りしてこい！」「了解しました。」

　浜田と安藤は走った。

　なぎさは、ガラケーを取り出し、あかりを呼び出した。「新町。交通整理、ご苦労様。今。大町と馬越が重機を運びに行った。小坂、下條と誘導を頼む。」「了解しました。」

「名越さん。」「何でしょう？」「けん引で動かそうと思います。それで、空自の空中キャッチは諦めて、ホバーバイクでけん引します。」

「ロープですね。お任せ下さい。おい、金田。」「はい。」「牽引用のロープと、あれを持って来い。」「あれ？」「名前、ど忘れしちゃって。でも、あれで分かりますから。」

　名越と金田は走って行った。

「副隊長。EITOガーディアンズは、ホバーバイクの後ろに、そのロープを結ぶ訳だな。よし、みんな。ロープが到着次第、『舫い（もやい）結び』で結ぶんだ。」

　筒井は、手でガーディアンズに手振りで、レクチャーを始めた。

　名越達が戻って来た。

「金森、馬越。MAITOに協力して、ロープの先端をコースターの先頭車に着けるんだ。」

「了解しました。」MAITOの2人と金森達は、コースターをよじ登り始めた。

　増田、日向、飯星、伊地知が戻ってきた。

「副隊長、園内に残っていた利用客は全員、待避させました。」と増田が代表して言った。

　結城、江南もバイクで戻って来た。「後日、理事官と久保田管理官から記者会見があるから、と言って、マスコミは帰らせました。撮影している者がいるかどうか見回りましたが、大丈夫なようです。」と、結城が言った。

　大町と、馬越がクレーン車とショベルカーを運んで来た。

　金森達はコースター先頭車にロープをフックで繋ぎ終え、筒井達はホバーバイクの後部にロープの先端を結び終えた。

　浜田と安藤が運転してきた大型トラックが乗降口の向こうに横切って駐車した。なぎさは、バリケード地点を設定させたのだ。そして、その向こうにショベルカーが、MAITOの隊員達に配置され、クレーン車も配置された。浜田と安藤は待避し、大町と馬越は、そのまま運転席に残った。

　なぎさのインカムに大町から連絡が来た。なぎさはホバーバイクで待機している、馬場、筒井、青山、高木、井関にけん引の合図を送った。

　大規模なけん引作戦は始まった。じりじりと動いていた、ジェットコースターは、真上から90度の角度まで降りてきた。みちるを通じて内山に合図された操作員が、ブレーキのスイッチを入れた。

　乗降口の先に設けられた、バリケード地点までで止まるかどうかが勝負だった。

　ジェットコースターは、乗降口を通り過ぎ、バリケードを押し進み、間もなく止まった。

　歓声があちこちで上がった。

　陸上自衛隊出向の、なぎさだからこその、見事な作戦だった。

　遊園地支配人駒根が、やって来た。黙って土下座をした。

「顔を上げて下さい。私は職務を果たしただけ。あなたの職務は、事故原因を突き止め、利用客の補償をし、善後策を講じることではないですか？」

「ありがとうございました。」そう言って、支配人は去って行った。

　インカムで本部に報告を終えたなぎさに、肩を叩く者がいた。

「やったな、副隊長。犯人がダークレインボーだとしても勝てなかった。」と、筒井は言った。

　MAITO隊長名越と消防隊長、救急隊長が握手を求めてやって来た。

　消防隊、救急隊は、利用客を救急車に運び、去って行った。

　MAITOの隊員達も、それぞれ引き上げて行った。

　午後６時。EITO本部。

　皆、涙しながら、握手し、抱き合った。

　須藤医官は、「いい部下を持ったな、大文字。」と言った。

「ええ。」と、伝子は短く応えた。

　午後8時。伝子のマンション。

　高遠は、ひかるとテレビ電話で話していた。二人とも自宅で、救出中継をインターネットで観ていた。

「やったね、高遠さん。」「ああ。無事で良かった。」

　その時、高遠のスマホのテレビ電話に、福本が割り込んで来た。

「産まれた？女の子？」福本の知らせに思わず高遠は叫んだ。

　―完―