第35話 遠回りは近すぎる
『古代種』に導かれ暗い穴の中を進んでいた私たちは、しばらくするとどうにも進みようのない岩肌に突き当たった。
「えっ、行き止まり? ……話が違うじゃないの」
私が不平を漏らすと、「コノルートハ近道デハナイ」という予想外の答えが返ってきた。
「近道じゃないって……どういうこと?」
「近道はベツニアルガ、オソラク敵ガ待ちカマエテイル。「ヌケミチ」ヲトオレバ「聖洞」ノスグ近くにイクコトガデキル」
「ヌケミチって……ここが?行き止まりじゃない」
私が首を傾げるとあたりに振動音が響き、『古代種』の首から下がっている「数珠」が光り始めた。
「な……何か起こってる?」
私が本能的に身を固くすると前方を塞ぐ壁が崩れ、ゆるい勾配で上に続く通路が出現した。
「コノルートは「近道」ノウエヲ通っテイル。ツキアタリヲ下レバソコハモウ「聖洞」ダ」
「なるほど、そう言われたら確かに「近道」だわ」
私がひとしきり感心すると、石亀が「行きましょう、どのみち『グライアイ』の待つ「聖洞」には行かねばらなんのです」と言った。
「そうね。久里子さんと、囚われのライル監督もそこにいるでしょうし」
私は同行している職員全員の意思を確かめると、『古代種』の後に続いて再び歩き出した。
※
「ねえ、また行き止まりよ。本当にこのルートで合ってるの?」
勾配のある横穴を上ったり下りたり一列になって移動を続けた私たちは、またしても岩肌に行く手を阻まれ立ち往生した。
「……コノ真下が「近道」ノシュウテンダ」
先頭を行く『古代種』がそう言うと、再び首の「数珠」が光り出し近くの床が崩れ始めた。
「あ……」
「ワタシノアトニツヅケ」
『古代種』はそう言い残すと、吸い込まれるように穴の中に姿を消した。
私が「続けと言われたって……」とぼやきつつ穴を覗きこむと、二メートルほど下に同じような横穴の床が見えた。
――どうしよう、思いきって飛び降りてみるか。
私が背後の部下たちに号令をかけようと息を吸い込んだ、その時だった。
「ぐるるるる」
突然、下の通路に見える『古代種』が威嚇するような唸りを上げ始め、私は何か異変が起きていることを悟った。
――ここで待っていてもどうしようもない。とりあえ下りなくちゃ。
私は肩越しに振り返ると、背後の部下たちに「下りるわよ」と告げた。
※
下の通路に下りた私たちが最初に見たのは、『古代種』と睨みあっている別の怪物――『キメラ』だった。
どうやら道場で襲ってきた敵の一種らしく、猿のような身体のあちこちから触手のような手を伸ばし『古代種』の隙をうかがっていた。
「――ぎいっ」
『キメラ』は『古代種』に躍りかかると触手で『キメラ』の胴を縛め、尻尾の蛇に喰らいついた。
「ぐ……ああっ」
『古代種』は尻尾が弱点なのか呻き声を上げると、必死で『キメラ』を振りほどこうとした。
「きいいいっ」
『キメラ』に噛みつかれた蛇が鳴いた次の瞬間、ばちんと火花が散って『キメラ』が後ろに弾き飛ばされた。
「ふーっ、ふーっ」
全身の毛を逆立て荒い息をしている『古代種』の首を見た瞬間、私は「あっ」と叫んでいた。先ほど岩を砕いた時に光った「数珠」がなくなっていたのだ。
「ぐぐぐ……きひっ」
笑い声かと思うような奇妙な声を上げたのは、なぜか後ずさっている『キメラ』だった。
「――「御守り」を盗んだのね!」
私は『キメラ』の触手が「数珠」を握りしめているのを見て思わず声を上げた。
「きひいいいっ」
『キメラ』がこちらに背を向け、勝ち誇ったような声を上げて逃げ去ろうとしたその時だった。
「――ぎゃっ!」
突然、何もない空間に現れた壁のような人影に跳ね返され、『キメラ』は「数珠」を放り出して洞窟の床に転がった。
「痛えええっ! ……あれっ?さっきまで崖の下にいたのに」
「――コンゴ!」
私は出現した部下の名を呼んだ。なんと敵の逃走を阻止したのは、後で来るはずの金剛だった。
「……ぐぎっ」
「――あっ、だめっ!」
起き上がった『キメラ』が再び触手を伸ばし、私が飛びだしかけたその直後だった。
「――ワン!」
突然、黒い犬が風のように現れ、『キメラ』の触手に噛みつくのが見えた。
「ぐぎゃーっ」
触手を噛まれた『キメラ』は黒い犬を振りほどくと、私たちに背を向け一目散に走り去った。
「――ウルフ!あなたも来てくれたのね」
『古代種』の窮地を救った黒い犬は、「くうん」と鳴くと小さな体をぶるりと震わせた。
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