第24話 探偵事務所発一時三十分
「すごい、見事に何もないわ」
業務終了後のオフィスで冷蔵庫をあらためていた私は、思わず声を上げた。
「何か形だけでも入れておいた方がいいかな……でも」
私は振り返ってオフィスの時計を見た。まだ午後の一時半。あゆみからの依頼にひと区切り付いた事もあり、今日は半日のみで部下たちは帰宅済みだった。
「まさかこんな中途半端な調査が終わったくらいで、打ち上げをするってわけにもいかないわよね」
それとも、空っぽなのも景気が悪いから何か買って入れておいた方がいいだろうか。
そんなことを考え始めた、その矢先だった。不意に机の上の携帯が鳴り、私は冷蔵庫の扉を閉めて自分の机に舞い戻った。
「はい、『絶滅探偵社』ですが」
「あっ、絵梨?千尋だけど」
「どうしたの?仕事中にかけてくるなんて」
私は軽い驚きを覚えた。千尋が電話をかけてくるのは珍しくないが、仕事場にとなるとかなりレアな状況といえた。
「あのね、今、真夕子先生のマンションにいるの」
「真夕子先生のマンション?」
私は面喰った。話の内容もそうだが、雨宮真夕子は終わった調査の関係者でもある。こうして改めて名前が出てくるのは何とも妙な気分だった。
「先生がね、新しいメニューを作ったから生徒さん達を誘ってみんなで食べたいって言うの。絵梨は誘わなかったみたいだけど、私が誘いたいって言ったらいいわよって。今からこられないかな?
「うーん、実を言うと今日はたまたま仕事が半日で、ちょうどオフィスを閉めようとしててたところなの。でも、今から行ったりしていいのかな。他の生徒さんたちもいるんでしょう?」
「それは大丈夫。絵梨の仕事場からどのくらいかかるかなあ」
私は真夕子のマンションを思い浮かべた。ここからあそこまでなら三十分弱で行けるはずだ。
「行くとすれば、二時くらいに行けるかな」
「えっ……絵梨、先生のマンションの場所、知ってるの?」
千尋の疑問はもっともだった。彼女は私が依頼された浮気調査のターゲットが真夕子であることを知らないのだ。
「う、うん、なんとなく……じゃ、三十分後には着くって皆さんに伝えてくれる?」
「わかった。待ってるね」
千尋との通話を終えた私は、ふうっとため息をついた。気晴らしにはもってこいのようでもあるし、何となく気が重いようでもある。
なにより引っかかっているのは、真夕子の元にまだあるであろう『古代神獣の杖』は飛燕がこっそりすり替えた真っ赤な偽物であるということだ。
――まあ、気がつかなければそれはそれでいいのかもしれないけど。
私はいったん距離を置いた案件との奇妙な縁に、気持ちのどこかがざわつくのを覚えた。
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