第22話 中途の調査
「いてえ……うちの事務所はおちおち昼寝もさせてくれないのかよ」
何もない空中から落下してきたのは、金剛と我がオフィスの古びたソファーだった。
「――コンゴ!」
「あ……そこにいるのはボスとワン公?また何かピンチなんですか?」
「そうよ。下にいる怪物が伸びているうちに急いで逃げないと」
「下に……?ありゃ本当だ。……よっこらせ、と。うへえ、こいつは気味の悪い敵だな」
金剛が怪物の身体からソファーをどけると、同時に肌色の影がソファーの陰に飛び込むのが見えた。
「おいっ、隠れてないでソファーを外に出すのを手伝えよ」
「うるせえな、服がないんだよ木偶の棒」
私ははっとした。ウルフこと大神は丸い物を見ると黒い犬に変身する能力を持っている。……が、変身する際に着ている衣服が全て脱げてしまうため、変身が解けると全裸の状態になってしまうのだ。
「ボス、すんませんが門のところに行ってソファーが出せるように開けといてくれますか。……なるべくこっちを見ないような姿勢で」
「わかった、なるべく外の方を見てることにするわ」
私はみんなが外に出るまで怪物が目を覚まさないことを祈りつつ、門の方へと引き返した。
※
「そうでしたか……危険な目に遭われたんですね。無茶な調査依頼をしてしまって申し訳ありません」
オフィスにやってきたあゆみはそう言って深々と頭を下げた。
「いえ、気にしないでください。危険な目に遭ったのはたまたまで、我々のやり方が適切でなかった面も少なからずあるんです」
「そうなんですよ、例によってうちのボスが……」
「うちのボスが、なに?」
私が睨み付けると、大神は「ええと、まあそんなわけで我々としてはこれが精一杯でした」と報告書をあゆみの方に押しやった。
「充分です。色々ありがとうございました」
「保養所の調査は別の方からの追加依頼なので、あゆみさんの依頼にはカウントされません。請求書もここで渡しちゃっていいですか?」
「構いません。今日中に振り込みます」
あゆみは請求書を畳んでバッグにしまうと、「では、私はこれで」とソファーから腰を浮かせた。
「また、何かあったらいつでもご相談ください」
私が久しぶりに所長らしい言葉を口にした、その直後だった。ドアが開いて一度だけ会ったことのある人物が姿を現した。
「……探偵さん、久里子さん」
「――リサさん?」
現れたのは、『神獣』のロケ現場で会った久里子さんの旧友の娘、リサ・アンダーソンだった。
※
「リサさん、撮影は?」
そう尋ねたのは、あゆみだった。どうやらここを訪ねるということは、あゆみにも知らせていなかったらしい。
「映画の撮影が……クリス監督が大変なんです」
「大変って……?」
私が思わず問いを放つと、脇から小さな影がひょいと姿を現した。
「その話、あたしも一緒に聞いていいかね、ボス?」
バケツを手にそう尋ねてきたのは、久里子さんだった。
「どうぞ。久里子さんがいた方がリサさん話しやすいと思います。……で、何があったんです?
「ラストの前に主人公の護衛が一瞬で倒される場面があるんですが、クリス監督はこの場面だけはCGを使わず『神獣夢幻杖術』に近い生の殺陣で撮りたいとおっしゃってて……」
「……ふう、まったく男ってのはいくつになっても子どもだねえ」
「それで、監督はもう一本の『神獣の杖』があるほこらに行ってなんとか杖を貸してもらおうと考えたんです」
「――それで?」
「途中で、「獣」とかいう得体の知れない生き物に襲われて全治二週間の重傷を負ってしまったんです」
「獣?」
わたしははっとした。杖と獣と言ったら、どう考えても道場や保養所跡に現れた謎の生き物の仲間と考えざるを得ない。
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