第18話 知人に似た曲者


「へえ、こんな建物があったのね……」


 見学者用のIDを貰ってロビーに足を踏みいれた私は、なんだか知らない学校のキャンパスに来たような新鮮さを感じた。


 『古生物資料館』は、絶滅した動物や昆虫の化石や標本が展示されている建物で、ローカルな学校の施設にしてはなかなか充実しているという評判らしい。私はほんの数分程度で調べた情報で、この建物の特徴をすっかり把握した気分になっていた。


「エイ様、杖の所有者をお連れしました」


「ああ、ご苦労……はじめまして、私がメールを差し上げた「A]です」


 ロビーでわたしたちを待ち受けていたのは長身で童顔の若い(といっても三十は過ぎているだろうが)男性だった。


「はじめまして、汐田と言います」


 雪乃の言う「エイ」の発音が「A」とは異なっていたことに、私ははっとした。もしかしてこの男性が「裔」なのか?


「さっそくですが、杖を見せて頂いてもいいですか?」


「……それなんですが、実は今日持ってきた「杖」は『古代神獣の杖』ではないんです」


「えっ?どういうことです?」


「実は私たちの元に『古代神獣の杖』は存在しないのです。本物の杖を持っているのは若月飛燕という若い男性です」


「若月……どうやら複雑ないきさつがあるようですね。それをお話し願えますか」


「もちろん。でもその前に一つお伺いしても構いませんか」


「どうぞなんなりと」


「武部哲史と言う人を、知っていますか?」


「なぜ彼のことを……?」


「知っているんですね? ……ということは、『古代神獣の杖』を鬼淵杖斎先生のところから盗ませた『古いほこらの裔』とはあなたのことですね?」


 私が畳みかけると「A」はやっとこれが罠であることに気づいたらしく「そういうことだったんですか。……で、若月なんとかという人は何者なんです?あなたたちとの関係は?」と逆に問いかけてきた。


「何者かは知りませんが、武部哲史がある人に預けた『古代神獣の杖』をレプリカを使って横取りした人物であることは確かです。どこにいるかは私にもわかりません」


「そうか、なるほど……で、僕に罠をかけてまで接触してきた理由は?」


「実は私たちも「杖」の行方を追っているんです。『神獣夢幻杖術』の奥義を見たいという方からの依頼で」


「そういう事情か……つまり親父の差し向けた部下ではないってことだな」


「親父?」


「古びたほこらを守ることを使命だと思っている人物さ。僕から見ればあまり意味のある仕事ではないけどね」


「じゃああなたはやはり「ほこら」の主の……」


「二代目さ。名前は伊妻修吾いづましゅうご。武部をそそのかして『古代神獣の杖』を盗ませた本人さ」


「なぜ……」


「杖が持つ「力」を解析してビジネスに役立てるためさ。もう親父のやり方は古いんだよ」


「力というのは、杖に取りつけられている古代生物が持つ「超能力」のことですか?」


「超能力? ……僕は杖の「力」をどうにかして科学的に解明したいんだ。絶対なんらかの物理現象があるに決まってる。超能力なんて物はこの世にないんだよ」


 私はこの悪人ではないが短絡的な二代目に、少しばかりむっときていた。超能力が何なのかは私にもわからない。でも確かに存在することは知っている。その不思議な力に、私は数え切れないほど助けられてきたからだ。


「それで?僕に何を望む?」


「杖を取り戻すのを、手伝ってくれませんか。……これが若月飛燕の画像です」


 私が調査の過程で隠し撮りした飛燕の写真をタブレットに表示させた瞬間、修吾の顔色が微妙に変化した。


「こいつは……」


「まさか、知ってるんですか?」


「ああ……名前は違うが、僕の知っている人物にそっくりだ。……なるほど、そういうことだったのか。くそっ、こいつはしてやられたな」


 伊妻修吾――『古いほこらの裔』は、そう言うと悔しそうにロビーの床を踏み鳴らした。


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