第16話 黒幕プラス一人
「まさか石さんとコンゴが来るとは思わなかったわ」
事務所に戻った私は身体を椅子に投げ出しながら言った。
「コンゴが突然、「ボスが……」と呟いたと思ったらもう怪物の上ですよ」
石亀が慣れた物言いで淡々と言うと、金剛が「たまたま周りに人がいなくて助かりました。今回の調査じゃあ「飛ぶ」ことはないって思ってたのに……」
とぼやいた。
このあたりの出来事に関しては、説明が必要だろう。
我が『絶滅探偵社』に所属する五人の部下たちは……信じられないだろうが全員「超能力者」なのだ。
つまり、道場の庭で何もない空間から金剛と石亀が出現したのは、金剛が私のピンチを察して「瞬間移動」を行ったからなのだ。
もちろん、他の部下たちもそれぞれ独自の能力を持っている。私は二代目所長に着任してまだ数か月だが、これまでに何度彼らの特殊能力に命を救われたかわからない。
一般の人たちからすれば何かのトリックかと思うような奇妙な能力ではあるが、少なくとも私はこれらの能力なくして我が社は成り立たないと確信している。
「ボス、武部が言っていた『古きほこらの「裔」』を昨日一日かけて調べました。まだ断片的な想像に過ぎない段階ですが、お聞きになりますか?」
「もちろんよ。はっきりしないところは想像で補って構わないから、聞かせてくれる?」
「了解いたしました。では……」
石亀はそう前置くと、当初の依頼内容からは想像もつかないほど突飛な事情を語り始めた。
「鬼淵杖斎氏によると、『古代神獣の杖』には対となる『古代霊獣の杖』というものがあるそうです。『霊獣の杖』の方はとある難所の奥にある『古きほこら』という場所に祀られており、持ちだされぬよう厳重な管理がなされているとのことです」
「対になる杖……ライル氏の映画の設定とそっくりだわ」
私がぼそりと漏らすと、石亀は頷いて「おそらくライル氏もその辺の話を小耳に挟んだのでしょう」と言った。
「私はこう考えました。『古代神獣の杖』を武部に盗ませたのが「ほこら」の関係者だとしたら、鬼淵杖斎氏に直接「あの杖は本来、我々が管理すべきものだ」と言って譲り受ければいいだけの話です。わさわさ人を使って盗ませる必要はありません」
「つまり、『古きほこらの裔』はほこらの管理者ではない……」
「そうです、何らかの因縁があるとしても、どちらかというと管理者とは敵対するような間柄だと思います」
「じゃあ、『古きほこらの裔』は杖を何のために盗ませたの?」
「杖の本来の管理者を仮に『ほこらの主』としましょう。「主」は二本の杖をご神体として扱い、外に出さない意向を持っていた。しかし『ほこらの裔』は、杖の持つ「力」を利用して何らかの利益を得たいと考えていた。そこで武部をそそのかし、杖を盗ませたのです」
「たとえば、「主」と「裔」が親子みたいな関係にあるって考えればすっきりしない?」
「そうですね。ただ杖を盗ませたのが「裔」だとしても、武部が飛燕のことを知らないと言っていた以上「裔」と飛燕は同一人物ではない。となると「裔」のほかにもう一人、飛燕なのかその上の人間なのかはわかりませんが、杖を欲する人間がいるということになります」
「そうね。でも飛燕の行方はわからないわけだし、どっちの敵も手がかりがまるでないわ」
「こういう作戦はどうでしょうボス。飛燕の行方がわからない以上、その「裔」という人物の方を罠にかけて誘き出すというのは」
「誘き出す?どうやって?」
「SNSなどを使って『杖を取り返した』という情報を流すのです。「裔」なら必ず罠に食いついてくるはずですし、うまくすればこちらの協力者になってくれるかもしれません」
「そんなに簡単に説得に応じてくれるかしら?」
「事の危険性を根気強く訴えられれば、可能性はあります。「裔」が「主」の息子なら、「もう一人の誰か」に杖が渡るよりはご神体に戻す方がましだと考えるでしょうから」
石亀はそう言うと、「今日は全員で偽の情報をばらまく日」ということでどうでしょう?」と冗談っぽく私に打診した。
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