第10話 時の向こうの娘
映画『神獣』のロケ地は、私たちのオフィスのある町から車で二十分ほどの山地に造られていた。
「おお、本当に来てくれたんだねクリコ。もちろん、僕の映画に協力してくれるんだよね?」
ライルはカメラの前を離れると目を細め、両手を広げながら私たちの方にやってきた。
「あいにくと上司の「命令」で来ただけだよ。あたし達が来た目的は盗まれた「杖」を探すためさ」
「杖と言うと……ひょっとして『古代神獣の杖』のことかい?」
「ずいぶんと要らないことを知っているんじゃないか。杖術に興味があるのかい?」
「クリコ、今回の映画は二十年前に君がスタントを兼ねて行った殺陣を蘇らせるための映画なんだ。あの時、君が見せてくれた杖術がなんだったのか、僕は調べた。そして鬼渕杖斎先生と『古代神獣の杖』に行きついたんだ」
ライルの流ちょうな説明に、私は耳を疑った。なんと海の向こうの役者さんが日本の武術を――それも久里子さんの殺陣が忘れられないという理由でここまでとことん調べるとは。
「ライルさん、どうしてこの映画のロケ地に日本を――それもこの場所を選んだんですか?」
「いい質問です所長さん。この映画のラストは、どうしても日本でなければならないんです」
「日本でなければならない?」
「そうです。私が演じる悪の主役とそれを追う捜査官の女性は、日本人の血を引いているという設定なのです」
「日本人の血を……」
「そうでなければ『古代神獣の杖』は使いこなせない――私はどうしてもそうしたかったのです」
「つまり因縁に決着をつける殺陣の場面は、日本でなければ絵にならないと?」
「そういうことです。もちろん映画で使う『古代神獣の杖』はレプリカですが、それでも舞台だけは日本でなければならないのです」
「その『古代神獣の杖』なんですが……」
私が調査の経緯を説明しようと頭の整理を始めた、その時だった。
「――クリコさん?」
機材車の方から小走りにやってきたのは、猫のような目をした東洋系の女性だった。
「……あなたは?」
「私、リサ・アンダーソンといいます。ナオミ・ランド―の娘です」
「ナオミさんの娘……そうなの。お母さんは元気?」
「母は……病気で亡くなりました。でも小さい頃からクリコさんのお名前は聞いていましたし、『リミテッド・プリンセス』でクリコさんが演じられた剣士が出てくる十分間は、私にとって全ての映画の中で一番好きなシーンです」
「あれは女優さんが難しい殺陣をどうしてもできなくて、仕方なく私が演じたのよ。演技も何もあったもんじゃないわ」
「でもライル監督はあの時のクリコさんか忘れられなく、てこうして日本までいらっしゃったそうです」
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