第9話 干されかけた男
「それでは、調査内容の定期報告を始めます。まず、石亀班からお願いします」
私が所長席で頑張って声を張ると、唯一の管理職である石亀が立ちあがった。
「ええと、骨董屋『白亜堂』の主ですが……杖のレプリカを造ったのは主の知り合いで、杖については主ともども何も知らないそうです。飛燕の正体についても同様で、いきなり現れてかなり高い値で造形を依頼、完成したその日のうちに「本物」を回収してどこかへ去って行ったそうです」
「ふう……予想通りね」
「一応、裏も取りましたが主に後ろ暗いところはなさそうです」
「要するに骨董屋は飛燕にとって、レプリカ造りを発注するためだけの場所だったってことね。……わかりました。じゃあ次、古森調査員、お願い」
「はい。瀬奈光晴氏から提供された情報によると、杖を預けに来た人物は
「直接本人に、電話かメールはしてみた?」
「はい。ですが今の所返答はありません。検索したところ確かにそういう役者さんはいるようですが、あまり売れてはないようです」
「ふう。これで両方から手繰って言った糸が切れちゃったわね」
私が椅にもたれて天井を仰ぐと、オフィスの扉が開いて誰かが入ってくる気配があった。
「――そうとも言いきれませんぜ、ボス」
ため息を吹き飛ばすように入ってきたのは、荻原と久里子さんだった。
「どういうこと?テディ」
「今、名前が上がった武部哲史は杖術の師範、
「やっぱり杖を盗んだのは、関係者だったのね。……で、その人は今どこに?」
「残念ながら、わからないそうです。鬼淵師範によると、『古代神獣の杖』はみだりに持ちだすと持っている人間の心身を蝕むこともあるそうです」
「なるほど、瀬奈光晴氏の所に来た人物の様子とも一致するわね」
私は杖を盗んだ人間の身元がわかったことにほっとしつつ、さて探偵としては飛燕と、あるいは盗んだ弟子、どちらの足取りを先に追うべきだろうと考え始めた。
「石さん、飛燕と杖の方は全く手がかりがないのよね?」
「はい、今の所……」
「じゃあ申し訳ないけど、何か出てくるまで引き続き飛燕の周辺を調べてもらえる?」
「承知しました。……で、ボスは?」
「私は……武部だっけ? その弟子って言う人のことを少し調べてみるわ」
私がコンビの候補を見繕うべく部下たちの顔ぶれを見回した、その時だった。
「ボス、その人の近況ならたった今、わかりました」
古森がタブレットに目線を落としたまま、淡々と言った。
「えっ……それってどういうこと?」
「今、撮影している映画に出演してるんです。監督・主演はクリストファー・ライル……」
「ちょ、ちょっと待って。それって確かこの前うちに来た……」
「外国人の方ですね。久里子さんのお知り合いでしたっけ」
古森がそう言うと、部下たちの目が一斉に久里子さんの方を向いた。驚いたことに久里子さんは帰ってきて早々、いつもの服に着替えて掃除の準備を始めていた。
「そんなにいっぺんにこっちを見て、いったい何の騒ぎだい?」
「武部哲史が映画に出演中となると、調査協力を取り付けるには監督の許可がいるわね。 ……行って下さいますね久里子さん。映画の撮影場所に」
「――やれやれ、あたしはもう充分ランデブーを楽しませてもらったってのに、まだ続きがあったとはねえ」
久里子さんはモップの柄をくるりと半回転させると、了解という代わりに柄で床を叩いた。
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