第7話 小娘には向かない職業
「えっ、若月飛燕が失踪?」
張り込みの手順を大神と確認していた私の元に届いたのは、依頼主からの意外な情報だった。
「はい、はい……じゃあ浮気調査の方はいったん終了にしていいってことですね?わかりました」
通話を終えた私に大神は「中止ですか……いい案件だったのになあ」と露骨に惜しんでみせた。
「せこいこといわないの。それより二本のうちの一本が中断されたってことは、逆に言えばもう一本の案件に集中できるってことでしょ?」
「えっ……というと「杖」の方ですか?」
「決まってるでしょ。まず、行方不明の飛燕の手がかりを……そうね、コンゴと石さんで追って貰える?」
私が「杖』調査の手配を始めると、大神が慌てて「ちょ、ちょっと待ってくださいよボス。仕切り直しなら、ちゃんと石さんに調査計画のたたき台を作ってもらって……」
「ちょっとウルフ、なによそれ。私の計画はちゃんとしてないっていいたいの?」
「い、いえ別に……俺は何をやったらいいんです?」
「ウルフは浮気調査の報告書を作ってて。あと留守番も」」
「留守番?」
「私とヒッキで真夕子さんに杖を譲った人物に当たるから、事務所の方をお願いって事」
「私が行くんですか……」
普段は経理などの事務仕事に就いているヒッキこと古森調査員は、眼鏡の奥の目を見開いて私に尋ねた。
「そうよ。たまにはいいでしょ」
「いえ、あの……はい」
「……ってことは私は待機してればいいんですかね、ボス」
パチンコ玉を指で弄びながら問いを寄越したのは、テディこと荻原調査員だった。
「ちゃんとあなたにも仕事はあるわ。クリコさんのサポート……ボディガードよ」
「ボディガード?」
普段、私や古森の苦言にも動じない荻原が、なんだそりゃと言うように腰を浮かせた。
「ボス、あたしとテディの間を取り持ってくれるのは嬉しいけど、掃除のおばちゃんにボディガードは不要だよ」
「そうじゃないの、久里子さん。できれば明日から、なんとかっていう杖術の師範の所に行って話を聞いてきてほしいの」
「ここにの仕事を放り出してかい?そういうわけにはいかないよ、ボス」
「大丈夫、事務所の掃除はみんなで手わけすればなんとかなるわ。給料はもちろん、同じだけ出すから仕事だと思って引き受けてくれません?」
「簡単に言うけどねえ、掃除にだってそれなりの腕が要るんだよ……それに」
「それに、なんです?」
「ボスの目の届かないところでテディと二人きりになったら、間違いが起きるかもしれないよ」
「大丈夫、うちは社内恋愛には寛容だから。聞いた話の内容さえ電話で伝えてくれれば、最悪駆け落ちも容認します」
私がそう返すと、荻原が「待ってくれ」と言わんばかりに表情を強張らせた。
「……ふう、しょうがないねえ。一週間だけだよ」
久里子が根負けしたように太い息を吐くと、大神が「ボス、むちゃくちゃです。経理担当はいなくなるわ、掃除をする人はいなくなるわ……俺一人でどうしろっていうんです」
「心配性ねえ、ウルフ。杖の一本くらい、すぐみつかるわよ」
私は荻原の「どうですかねえ」という言葉を聞き流すと、「さあ、それじゃあ明日から「『古代神獣の杖』大捜索」を開始するわよ。報告はまめに行うように、以上!」と言った。
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