第6話 失われた武器をもとめて


「なるほど、そういう目論見があったから、妻にアシスタントに起用するよう売りこんできたんですね、ううむ」


 杖の一件があった数日後、探偵事務所に現れた真夕子の夫は私たちから報告を聞くなり難しい顔で唸った。


「どうなさいます?」


「浮気の件と杖の件は別ですからね……若月君との件は引き続き調査を続けてもらって、別件で杖の行方を突き止める調査の依頼をしてはいけませんか」


「杖の行方を突き止める?」


「はい。もちろん見つからなかった場合でも、調査費用はお支払いします」


「浮気調査の方は?」


「あと二週間調査を続けて決定的な証拠が得られなければ、私が直接問いただします。彼の態度いかんによっては、妻に近づかぬよう警告した上で事務所を解雇します」


「それでいいんですね?」


「はい」


 真夕子の夫は、目に苦悩の色を残しつつどこかすっきりした口調で言った。


 新たな依頼を終えて真夕子の夫が事務所から姿を消すと、入れ替わりに一人の若い女性が「あのう……」と不安げな顔で事務所に姿を現した。


「はい、なんでしょう」


「ここに、島津久里子さんっていう方はいらっしゃるでしょうか?」


「あ、はい。おりますけど彼女に何か?」


 私は面喰った。また久里子さんだ。映画関係の人だろうか。


「私、映画のスタントをしている功刀くぬぎあゆみという者です。立ち回りでお世話になっている杖術の師範から過去にすごい女性殺陣師がいたと聞いて、ぜひお会いしたいと思って……」


「それが久里子さんだと?」


「ここで働いてる方では、ないんでしょうか?」


 ショートカットのあゆみという女性が肩を落としかけると、「あたしで間違いないよ」と久里子さんがバケツを手に近づいてきた。


「今どきスタントで杖術をやるとは、物好きな若者もいたもんだねえ。……でも、あたしに教えられることなんてないよ」


「はい。師匠からはあなたはもうスタントに戻らないだろうと聞かされました。でもあなたが会得したという『神獣夢幻杖術』をどうしても見たいと師匠にねだったところ「あの術は『古代神獣の杖』がないと私でも、たとえ久里子でも無理だと言われました。


「あの杖かい。あっても今のあたしじゃ無理だろうね」


 奇妙な名前のオンパレードに戸惑いながら、私はあゆみと久里子さんの会話に聞き入った。


「今日、こうして島津さんに会いにうかがったのは『神獣夢幻杖術』を見たいということだけではないんです。実は先日、『古代神獣の杖』が師匠の元から盗まれてしまったんです」


「盗まれたって?あれが?」


「はい。それで島津さんなら、あれを盗みそうな人物を知っているのではと思いまして」


「そうだねえ、杖術に関心を持っていた連中なら何人か知ってるけど、盗むとなると相当な人間だろうからねえ」


 久里子さんがバケツを床に置いて腕組みをしたところで、私は思い切って「あの……」と割って入った。


「その杖ってどんな感じの物なんですか?」


 今まさに「杖」に関する調査依頼を受けた私にとって、あゆみが披露した話の内容は大いに興味をそそられるものだった。


「あ、画像があります。……これです」


 そう言ってあゆみが携帯に表示した写真を見た瞬間、私は「嘘っ」と叫んでいた。画面に映し出された『古代神獣の杖』は、飛燕が真夕子の元から持ちだした「杖」と寸分違わなかったのだ。


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