七夕の願い

月瀬

星に願いを

 いつか星に願ったのは、彼のしあわせだった。


 私は七織ななおり。今日は七夕。7年前、彼と出会ってから続く逢瀬の日。

 私と彼は、雨の降る悲しい七夕の日に、病院で出会った。私たちは、七星病という、非常に稀な病気の患者同士で、趣味も似ていて、運命だと思った。

 でも彼は、翌年の七夕の日に、私を置いて逝ってしまった。七星病は、運命の相手と出会った者のどちらかに死をもたらしてしまう、非常に残酷な病気なのだと、泣きじゃくる私に語る母の顔は、今でも忘れられない。

 残されたのは僅かに彼の体温が残る病室のベッドと、彼の親類からの恨みの籠った視線。

それと、最後に彼が私に託した、ロケットペンダントのみだった。

 ―来年もその翌年も、僕は君に逢いに行く―

彼は私に、忘れられない呪いをくれた。その日私は、冥府でも彼に幸あれと、私に出来る最大の呪いを彼へ送り、夢現へと旅立った。

 翌年の七夕。私は再び、彼と出会った。

「七織。ただいま。」

そう言って微笑む彼は驚く程に透明で、白い顔をしていた。

 それから七夕になると、必ず彼は私の元に来てくれた。その幸せな時間だけを頼りに、私は日々を生きていた。

 そして今年は、彼と出会ってから七度目の七夕。もう、私にはわかっていた。彼が毎年私の前に現れる理由を。

笹彦ささひこ。私はね、夢をみつけたの。七星病を治療できる医者になりたいっていう、無謀だけど大きな夢。だからね、笹彦。もう、私は大丈夫。貴方のことを…忘れて……しあっ…わせに……っ!なるからっ!!!」

 いつかの七夕のように、空には雨が降っている。

「七織、気付いてたんだね…僕が君のことが心配で成仏できずにいたことを…。」

彼の頬を一筋の雨が流れ落ちる。

 きっともう、大丈夫。だから今日だけは、貴方の運命でいさせて欲しい。

 その日から、彼は私の前に現れることは無くなったし、私も彼のことを考えなくなった。

それでも七夕には願ってしまう。彼の来世に幸あれと。

 ある日の七夕。私は病院で、七星病の青年に出会った。''大丈夫。私が必ず、貴方を治してみせるから。''そういうとその青年は、嬉しそうに微笑んだ。

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七夕の願い 月瀬 @tukise_

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