第10話
最寄り駅に着いたのは、夕方近くになってからだった。
「
未優がそう言って笑った。
「いらっしゃい。丞玖ちゃん、よう来たね」
丞玖の祖母だろう。優し気な雰囲気の年配の女性が迎えてくれた。
「えらい
未優を見て笑う。
「池田です。及川くんの学校で養護教員をしています」
未優が丁寧に頭を下げる。
「こいつは同級生の樋口」
丞玖に紹介され、真咲も急いで頭を下げた。
「あの、これ、母からです」
麻美から渡された紙袋を差し出すと、丞玖の祖母は「まあまあご丁寧に」と言いながら受け取り、真咲の顔をまじまじと見てから丞玖に顔を向けた。
「
丞玖が
「これはこれは。さぞかし山の神さんも喜びはるやろうなあ」
丞玖の祖父母の家は小さな旅館だったが、昔ながらの古風な造りだった。奥に見える
祭りがあるのは明日と明後日。メインは明日の夜とのことだ。真咲たちは温泉に入り豪華な夕食を堪能した後、ロビーでくつろぐことにした。
「丞玖」
太い声がして振り向くと、頭髪に白髪が混じった大柄な男性が歩いて来るのが見えた。
「爺ちゃん」
丞玖が嬉しそうに呼びかける。丞玖の祖父は側にいた未優に挨拶した後、真咲に笑いかけた。
「孫が無理言うたんやろ。すまんね」
笑った顔が丞玖によく似ている。
「祭りの説明をせんといかんな。ほんま、よう来てくれた」
丞玖の祖父は真咲の向かいのソファに腰かけ、村祭りについて話してくれた。
「大昔にな、長いこと日照りが続いたせいで
よくある昔話だ。神に
「村一番の
生娘という言葉に、中学生二人が反応する。まだ少し刺激が強かった。
「それから毎年、生贄は捧げられた。丘の上の社に娘を一晩寝かせて、神さんの嫁にしたわけや。あ、キリンレモン持って来てんか」
未優が少々困った顔をしているのを見てか、丞玖の祖父は側を通りかかった
「贄といっても死ぬわけやない。朝になったら、ちゃんと戻って来る。けど何年かに一回、朝に社の扉を開けても誰も
あけすけな神様だ。現代なら問題になりそうだが、神様だから仕方ないのか。そう思いながら、真咲は仲居さんが持ってきてくれたサイダーを受け取った。泡が弾ける音が心地いい。
「祭りは現代までずっと続いとったんやけど、昨今は物騒になってな。若い娘が一人やと思うてか、良からん事を考える奴が出てきて、娘を贄にすることは止めになった。その代わり、数え歳十六歳になった男が贄になる事になった。十六歳言うたら
大勢の幸せのために一人を犠牲にする。そうしなけれはいけなかった時代の名残。人権を無視したようなしきたりが、娯楽として生まれ変わったという事なのだろう。
「贄は毎年立候補によって選ばれるんやが、少子化で子供が少のうなってな。四年前は一人しか居らなんだから、半ば無理やり決まってしもた。そしたら、えらいことになって」
何があったんですか。と未優が尋ねる。丞玖の祖父はサイダーのグラスを盆に置いて、大きく息を吐いた。
「朝になって社を開けてみたら、その子は半狂乱で泣きじゃくっとった。物凄く怖いものを見たとかで」
目を開けたら、この世で一番恐ろしいものを見る。丞玖の言葉が耳によみがえった。
「贄が社に入る前は
何となく、その場が静かになった気がする。丞玖の祖父は真咲に向かい、「酒は飲めるか?」と聞いた。お
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