2-3話 生 会話
へんてこな形の手甲やレッグガードをはめた、薄汚い男たちでした。
昔のお父さんよりひどいものです。
それらは全部、怪しげな目でじーっと見つめてきます。
私は「こんにちは、避難所があると聞いて来ました」と少し大きな声で言いました。
男たちはバツが悪そうに「チッ」と舌打ちをすると、格子状の扉越しに私を観察し始めます。
「おい、おまえ」
痰が絡んだような野太いそれが第一声でした。
「飛び跳ねたりしろ」
首をこくっとひねらせました。
「二度は言わない、走れ運動しろ」
「はい?」
「だからな、お前は避難所に来たんだろ? だったら体を動かせるかどうか試せと、お前が感染していたらどうする」
彼は近くにあったテーブルを「ばちん」と叩き、眉間にしわを寄せながら言ってきました。
私は「なるほど」と言った形で飛び跳ねたり腕立て伏せしたりしました。
男は「あぁ、そうか」と小さく呟きながら、デカい手で扉を開けました。
「失礼します」
「いや、まて、まだ入るな」そう言って門の前へと男は出てきました。
「上着とズボンを脱げ」
「はい?」
もしかすると彼は人間ではないのかもしれません。
至って真剣そうな口調と顔でそんなことを言ってきたのですから。
あんぐり空いた口から喉の奥が見えそうになったころ「あぁ、そうか、まともな感性を持ち合わせているのは何よりのことだ。とりあえず入れ」と聞こえてきました。
平手打ちはとてもスッキリしそうです。
門の横っちょについている扉をくぐると、おっさんににた恰好をした男が、2、3人突っ立っていました。
「はぁ、仕事だ。おい、椅子には座るな……それでだ、これからお前はあの方の元へ行ってもらう、妙な真似をすれば命はないと思え。まともな感性を持ち合わせている人間を殺すのはまっぴらごめんだ」
「はあ、はい。それであの方とはどなたですか」
「名前なんて覚えていない、ここを仕切っている女だ。これ以上は質問を受け付けない、早く行くぞ」
「……」
てくてくと後ろをついていきました。
もちろん荷物は全て没収です(「あとで返す」と言われてないのは、男を見ていれば、理由なんてわかりきっています)。
何人かの男とすれ違い、私にぺこりとお辞儀をしてきます。
私もぺこりとかえしました。
「いってこい」
門から少し離れたところで、荒々しく背中を押してきて、一つの家を指さしました。
シンプルな家です、赤色の斑点がいくつかある以外はですが、他には玄関の前に赤い十字架が飾られているくらいです。
「コンコン」と二回ノックしました。
扉を開けました。
「あの、すみません、門の人からここに来るよう言われたのです……勝手に入っても……」
床のそこら中に紙が散乱しています。
その中心くらいの所、身長の高いお姉さんがソファに座って、何か書き物をしていました。
となりに猫のぬいぐるみがあります。
「あー、誰? 門の人、小林ね、とりあえず座って、また、小林は説明していないようだし、とりあえず、そこに座って、服を脱いで」
またです。
「あの、門の人も言っていましたが、服を脱げって」
「そういうのどうでもいいから、早く脱いで」
「そのです、服を脱げってどういう……」
「貴方が噛まれていないか確認するためよ、べつに私は男でもないんだけど」
「……」
先ほどからずっと思っていたのですが、人の話を聞かなそうな人ばかりです。
いきなり服を脱げと言われて脱ぐ人が、どこにいるのでしょうか、ネットゲームでも見たことありません。
説明不足もいいところです。
こういう人たちに限って、ママ大好きっ子だったりするのです。
やれやれと首を振りながら、服を脱いで下着姿になります。
服と服がこすれる音が妙にイライラします。
それに加えて、顔色一つ変えずにじっとりと眺めています。もちろん貧相な体をです。
「見るなよ」と叫びたいくらいです。
「ふむ、じゃあ立って、脚広げて、そうそう、少し筋肉質ではあるけど、脂肪があるのは幸い、足の古傷はどこで?」
「……数年前に」
イライラと恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながら、黒色のつむじを見つめていました。
「犬にでも噛まれたか、とりあえず両手を上にあげて、そうそう、あと背中見せて、うん、いたって健康的、面倒だと思うけど下着も外して、すぐ終わるから、うん、特に傷はないと。いくつか質問するから素直に答えて、まずは……服の方はもう着ていいから」
小さく「はい」と返事しながら、尊厳のありようを考えながら……はい。
二度とこんな気持ち、嫌です。
「ええと、うん、まずは今から言う症状に当てはまったら教えてね……」
いくつかの質疑応答を終えて「とりあえずは問題なし」と耳にしたときは、ようやく終わりだと歓喜しました。
悪口をいっぱい言いたくもなりました。
鬱屈とした気分の中「はぁ」と小さくため息を吐き、立ち上がります。次はどこに行けばいいのか視線で問うと「ついて来なさい」
とっても迷惑な言葉を頂きました。
実に不愉快です。
また、てくてくとついて歩きます。
オレンジ色の夕日に照らされている中、おっきなお屋敷を前にしました。
近くに積まれていた灰色のタイヤが、景観を台無しにしています。
「とりあえず、中に入って、あとのことは知らないから、かってに入って……ていうのはさすがにかわいそうか、案内するからついておいで」
「ありがとうございます」
心の中で罵詈雑言をぶちまけながら、はにかむふりをしました。
案内されたそこは、少し立派な扉でした。
男女含めて数人が並んでいます。
手長足長の女は「じゃあね」とどこかに行きました。
腐ったミカンに口づけを トリスバリーヌオ @oobayasiutimata
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