2-2話 生 布団
猫みたいなぶっかぶかの掛け布団を放り投げました。
さっきのアレとは違い、柔軟剤の匂いがします。
さっきまでの吐き気とは裏腹で、頭はスッキリ、体もスッキリしています。
木製の棚にぶつかって、フィギアやらガラスが落ちたのはびっくりです。
薄く開けた目で立ち上がり、軽く腕を叩きながら、今が夢でないという確証がありませんでしたから、目の前にある扉から出ました。
窓から見える動く死体は相も変わらず、うごめいています。
階段を見つけたので降りてみました。
散らかっている部屋です。
私ががさつであるという証拠になりえる光景でした。
汚いです。
ブロック栄養食のゴミ袋が散乱している中、一枚の紙きれを見つけました。
テーブルの上に置いてあるそれに目を向けます。
「辛くなったら使ってくれ」
そこには別れと謝罪の言葉が書かれていました。
鞄の上に鉄砲が置いてありました。
黒と茶色のチャカです。
アイラさんなりの別れ作法なのでしょう、ですが出会ったばかりの私にプレゼントをよこすのですから、すこし首を傾けずにはいられません。
声に出すなら「へ」くらいです。
こういう時、頭が良ければと強く思います。
ですが、自分の頭をスイカみたいに破裂させるのは御免被りです。
それは、当然のことで、めいめいはくはくたる事実です。
それと、さっきの夢に遭遇するのも御免被ります。
―――――――――――――
家の中、キッチンの蛍光灯、パチリとつけて水を飲みました。
あれから一か月ほど時間が経ったと思います。
壁に日数を書き込むなんてしませんでしたので、詳しくは分かりませんが、多分一か月です。
窓から見る景色はいつもと変わらず、遠くの黒い煙と近くのお化けさんたちです。
生活する上でこれと言った、不自由を今のところ感じてはいません。
しいていうのであれば、食料を探す手間があるという点です。
民家に押し入ってはお化けさんたちを叩き切り、戸棚を漁らなければなりませんから。
浴槽に続く扉を開けた時なんて「こんにちは」と人がぷらぷらぶら下がっていましたから、びっくりです。
吐き気がします。
いつも通りご飯を探すため、扉を開けました。
「ぅぇ」という汚らしい声が思わず出てしまいました。
顔に紙がへばりついたからです。
それをひっぺがしました。
「避難所、ですか」
そこには避難所の場所と歓迎の意が書かれていました。
これはなんとも……魅力的です。
自分にそう言い聞かせて拳を握りました。
そうときまれば身支度です。
大きなバックパックを背負い、槍を右手に、チャカをポケットに。
私は歩き出しました。
―――――――――――――
墨色に溶接された金属。
釘の打ち込みあと。
バリのついたパイプ。
いかにも急ごしらえのそれは、思ったより頑丈そうです。
それこそ小娘一匹ではどうにもならないほどにです。
補強された窓や扉などを横目にしながら、入り口を探していました。
どうも、避難所周辺の路地や建物なんかにバリケードが建てられています。
その密度と言ったら驚愕するほどで、かれこれ30分ほど歩いていますが全くと行っていいほど抜け道や門を発見できないのですから。
化け物と出会わない有意義なお散歩を続けていると、それっぽい所に数匹の化け物を発見しました。
ですが、それらは20を数える間に倒れました。
オレンジ色の板金越しに男が数名こちらを睨んできました。
探し求めていた門です。
「こんにちはです」
そう言いながら近づいて行きました。
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