8話 死人、の行軍
「バタン」と小さく音を立てて倒れました。
私含め、皆青ざめています。
爆竹の勢いは数秒ほどで収まり、耳鳴りも少しはましになった気がします。
きっと気にならないほどの恐怖が襲ってきたからでしょう。
やけに静まり返った室内で、誰一人動こうとはしませんでした。
これから起こるであろう可哀そうな出来事を予想したからなのでしょう。
確実にそうです。
私がその代表みたいのところなのですから。
一番最初に声を発したのは、親切で不親切な隊長さんでした。
隊長さんっぽいです。
きっと隊長です。
多分隊長です。
これから先はどうなのかは分かりませんが。
考えてみましょう。
私は美しい女です。
はい。
子供を産んだら子供が生まれる。当然のことです。
では、美しい女にひざまずく男女。
これも当たり前ですね。
光にたかる虫。
女にたかる男。
男にすがる女。
音に吸い寄せられる死体。
そういうことです。
「run(走れ!)」
その掛け声を聞いた後、周りの人たちが走っていきました。
もちろん出口に向けてです。
つられるように、走ろうとしますがケガの具合が数時間で良くなるはずはなく、到底無理です。
小走り程度でしょう。
そんな様子を横目で見てくる者がいました。
走ってきている、数えるのが馬鹿らしくなるほどのゾンビ達です。
そんな馬鹿みたいな数の群れ、一番前の方に知り合いの顔がありました。
思わず右手に持っていた無駄に長い棒を落としてしまいました。
そして、何を思ったのかわかりませんが、気でも狂っていたのでしょう。
それを拾いました。
もちろん立ち止まって。
そして、周りをぐるりと見渡しました。
気づいた時には私の命が残り10秒なのだと気づきました。
カップラーメンを作る時間ほどもありません。
死ぬ直前に人は走馬灯を見るのだと聞き及んでいましたが、まったくの嘘です。
「いや、いや」と思うだけでした。
いえ、10秒もありませんでした。
すぐ後ろにいたからです。
一メートルほどです。
お母さまごめんなさい。
何もかもが面倒になったので「ペタリ」と地面に尻もちを搗きました。
目を瞑りました。
その時です。
「ビシッ」という大きな音と同時にすごっく下品な言葉が聞こえてきました。
「一体全体どうなっているだ、性行為」などと訳すそうです。
外国人に憧れている人は驚いた時によく使うのだと聞きいたことがあります。丁度あの人がそうでした。
どうでもよいですね。
最後に考えることが、こんなにくだらないことだなんて、私らしいと言えば私らしいですが。
体が宙に浮きました。
幸いなことに痛みを感じなくてよさそうです。
痛くないです。
涙で「ぐちゃぐちゃ」な目を開けました。
生きている人の顔です。
額に汗とシワを寄せて、必死な様子が伝わってきます。
女の人です。
名前は知りませんが、隊長さんです。
「トントン」という重たい振動が体を揺さぶっています。
これはお姫様抱っこでしょうか。
私を支えている腕やお腹は筋肉で「ゴツゴツ」しています。
私を掴んでいる両手に「ギュ」っと力が込められています。
こんな時に何を考えているのでしょうか。
私らしくありません。
隊長さんは大きく跳躍しました。
通り過ぎたのは幅2メートルほどの水路でした。
そのまま路地に走っていきます。
「スッ」と後ろを見るとゾンビは水路に飛び込んでいき、路地に入る直前で1匹ほど這い上がってきていました。
隊長さんは手ごろな扉を乱暴に開けると中に突っ込んでいきました。
荒れた部屋でした。
床には鍋や包丁などの調理器具だったり、床に散らばった精米済みのお米があります。
それらに黒色の点々がいくつも蠢いて、集っています。
どうやら、ここはキッチンのようです。
食べ物がありそうです。
他にも探せば何かありそうな様子です。
「ドラッグストア」が頭に浮かんできました。
アレ、別に……いや、考える必要はありません。
骨折り損のくたびれもうけ、だとかなんだとか。
隊長さんは私をゆっくり床におろすと、荒い息を吐きながらぐったり荷物を下ろしました。
私はそれを見て「フー」と息を吐きました。
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