6話 死人、無駄な話

 困惑と心配を感じました。


 さっきから彼女が「ころころ」と変えていくように、私も一緒に小さな船に乗るように、顔に「ころころ」と色を付けていきます。


 だったのなら、どれほど良いのでしょうか。


 それとは全く逆の事です。

 こういう時に「逆説的です」と言えばよいのでしょうか。

 少し意味を履き違えていますね。


 はたから見ると(見る人が数人しかいないというのは悲しいことかもしれません、ですが、この場合でしたら嬉しいことです)お相手さんが一方的なだけで「被害者と冷たい女の子」となっています。


 なぜこうも冷たくあしらってしまうのでしょうか。

 私としては全くそんな意図は無いのですが。


 それらはお互いが血濡れた服や道具を手にしていなければの話なのですが。


 それにより少しはましになっているのですが、それでも、やってしまったと思うほかありません。


 風で微かに揺れている髪の毛が、一瞬目の中に入って痛いと感じました。


 ですがそれは一瞬で気持ちの良いものに変わりました。


 さきほど緊張して頬を噛んでしまったのですが、気持ちの良いものに変わりました。


 血の味はあまり美味しくありません。


 流石にここまで来るとこれが何なのかよくわかります。


 鎮痛作用を及ぼすものには快楽が付随してきます。


 つまり「痛い! 気持ち良い!」痛み耐性のせいです。

 とすると……


 はぁ、そろそろ、現実を見ましょう。


 駐車場の白線を背景に、沈黙の時間が流れていました。

 体感で10秒ほどです。


「そうか」


 なんだか、憐れんだような声色です。


「辛くは無いのか?」


「辛くないわけありませんよ。ただそう見えないだけです」


「泣いてもいいんだぞ」


「人前でなくだなんて、恥ずかしいですよ」


「そうか」


 またです。


「先ほどから変なことを言ってしまい、すまない」


「べつに気にしていませんよ」と言いました。

「お前は絶対に死ぬんだ!」と言われまして、気にしない者はゾンビか狂人くらいですから、嘘ですね。


「Why are Japanese so(何故、日本人は……)」と小さく聞こえてきました。


 つたない英語教育を受けた私でも意味を理解することくらいはできました。

 なんだか、少し勘違いをしている様子です。


「そうですね。そのような疑問を抱くのは当然のようなことですが、ただ単純な事ですが、私達が何故なのかと言うと、社会性という物です。仕方のない事と割り切るほかありません。そして、それが悪い事と決めつけてはいけません」


「すまない聞こえていたか、それで、その……どういう意味だ?」


「つまりですね、教育によってそのような狂気的な謙遜、そんな態度を持つことが自分のためになると学んだので、仕方がないという事です、暗黙知? いえ、違いますか。つまりですね、日本人が悪いのではなく日本語には様々な意味が含まれ……、すみません、どうでもいいですね」


 先ほどまで冷たくあしらっていた女がいきなり饒舌になったら、気持ちが悪いというのに気づきませんでした。

 いや、もっと根本的なところがズレています。


 前までは、まともなコミュニケーションを取れていたのですが。

 何故でしょう。


「いや、興味深かった。続けてはくれないか?」


 どうしてでしょう。

 そうでした。

 彼女は日本で育ってはいない、そういうことでしょう。


「では」と言って周りを見渡しました。


 黒の2メートルくらいある柵に囲まれたお店を指さしました。

 もちろん人差し指です。

 だいたい、中指で「ビシッ!」とする人は何を考えているのでしょうか、猟師のあの人は失礼だと思わないのでしょうか。


「あそこの看板を見て感想を言ってみてください」

「黒いな」

「はい、他にはありませんか?」

「酒を扱っていることがわかる」


「日本人の場合はこう思います。『真っ黒じゃないですか』。または、『真っ暗です!』です。」


「確かに暗いが……」


「私は『真っ黒ですね』といいますが、他の国の方にとって「真っ」はどうでもよい事ですが、私たちは違う意味で捉えることが普通なのです。だから、私の言いたかったことは伝わっていません。それともう一つあります」


「"なぜこんなに黒くする必要があるのだろう"と思った後に『素敵な看板ですね』と言うことです。これで、伝わりますか?」


「伝わった」


 良かった。

 そう思うほかありません。


「ところで、君は、何故そのようなことを話したんだ?」


「えっ、何がですか?」


「その、なんだ、聞いた限りだと私の失礼な態度『英語で言っていた日本人は何故?』に反応を示さないことが普通だと捉えられるんだが」


「はい、そうですね。それが何か問題なのでしょうか」

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