第3話 思案

これほどまでに過去を悔いたことは無い。


「お久しぶりですね。アルト。」


「えぇ。この度は、ご助力感謝いたします。」


「貴方と私の仲ですもの。当然ですわ。」


後ろで部下がこそこそ話しているのが聞こえる。


「オスカー少佐。これは。」


「完全に尻に敷かれている旦那の図ですね。レオ少尉。」


みなまで言うな。


「アルト様。貴方の部下はきっちり国までお送りしますわ。」


「部下だけなんですね。」


「当り前ですわ。」


ソファーから立ち上がり、部屋を歩き出し、窓の外を眺めている様はとても絵になる。


「私から、あなた方傭兵に一つ依頼を出しますわ。」


ここからが本番だ。どんな無茶が来るのやら。


「あら。そんなに身構えないでくださいまし。」


彼女は、扇子を口に当てた。


ーーーーーー


「隊長…」


廊下に出た途端に話しかけてきた。


「分かっていたことだ。レオ少尉。」


オスカーがなだめている。


「お前たちは、先に本国へ帰ってくれ。」


「そうさせてもらいます。」


開口一番にオスカーが返事した。


「しかし!」


「レオ少尉!」


翌日には、私の部隊はオスカーが率いて本国へと帰還した。


「では、アルトさん。よろしくお願いいたします。」


「えぇ。分かりました。アケノ様。」


今回の任務は、隣国への訪問のための護衛だ。


「楽しみにしてますわ。」


彼女の笑顔には勝てないことを思い知らされた。


ーーーーーーーーーー


「なぜ、乗っているのですか?」


私たちは、現在隣国の中立国である、レイフォール国に向けての皇族用の電車の中である。

これでもかというほど厳重な警備をしている。人数、実力さらに最新の魔導器具を駆使して保護されている。

ただ一つ私自身の精神力を脅かす存在がいる。


「ご不満ですか?お父様。」


「いや。無いよ。ムツキ。」


彼女は、ムツキ王女。私の、娘だ。

やはり、この笑みは母親譲りだ。


「いかがですか?この魔導列車は?」


その母親であるアケノがこの魔導列車の感想を聞きたいという期待の眼差しが痛いほど突き刺さる。


「揺れも無い、音も静か何より安定して速いというところがすごい。ソル皇国の技術力の高さを窺えるよ。」


この安定した速さという点において可能性の塊だ。


「やはりあなたも気づいたのですね。」


「この技術は、軍事転用が出来る。」


「えぇ。その通りです。しかしながら他のことにでも使えますわ。」


僕には分からない。やはりこういう面では私たちのような存在には思いつかない。


「物流ですわ。」


「そうか。やはり、僕のような存在はすでに時代に取り残された存在か。」


少し、感傷に浸った。


「しかし、軍事転用と同じような考え方ですわ。人や物の流れを高速で流すことによって国の発展をということですわ。軍事の方だとそこに防衛になるということですわね。」


私たちが、この話をしているうちに中立国へと到着した。


今回の目的は中立国の代表との会談と会食だ。

僕は、一応この国には入れないのでこうして列車の中で待機している。


会談は、相当長引いているみたいだ。

始まったのが、日が真上にある頃だったが、今は星々が空の主役となり街は魔導灯の輝きで溢れている。


「アルト様。」


アケノが連れてきたメイドの1人だ。


「アケノ様が、会食に参加するようにとのことです。」


「真意は理解できないが、分かった。すぐに用意する。」


正直これに付き添われている時点で何かしらあるだろうと予想はしていたが。

彼女のことだ、何か考えがあるだろう。


「こちらです。」


メイドに案内されて、重厚な扉を開けた。


「失礼します。」


「来たわね。」


私がそこで目にしたのは。


「なぜ。あなたが。」


「あら。そんな顔されるとお姉さん困っちゃうわ。」


彼女は、姉の友人であるセリアさんだ。


「そんなことより、そちらの席にお付きになって。」


「では、お言葉に甘えて。」


僕は、セリアさんと対面するように座った。


「それで、僕を呼んだ理由をお聞きしても。」


「えぇ。構いませんよ。」


僕は、唾を飲み込んだ。


「本日から、この国に自由に出入りしてよろしいですわ。」


「なぜ、そのようなことを。」


「私がここに座っている理由が全てですわ。」


私は、失念していた。


この国は、代理を立てない。よほどの理由がない限り。


「つまり、あなたが今この国の代表ということですね。」


「その通りですわ。これで、やっとアメリアと会えるわ。そうだ!子供の写真はないの?」


僕は、彼女の勢いに終始圧倒された。


僕としては、この国となぜか国交が結ばれているこの状況の方が不思議だ。


「待て、なぜ。それが今この場で?」


「今更ですわ。ねぇ。」


「えぇ。今更です。」


僕は、後ろから嗅ぎ慣れた匂いがした。


「アルト。」


「アメリア姉様。」


「私が、お母様から委任されたのよ。」


「そういうことですか。」


僕は、その後会食を楽しんだ。その時、お酒を飲まなければよかったと後悔した。


翌朝の女性3人との事後を見た時に。








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