第33話 乗馬で股間が痛くなる!

 俺とリンクスが乗ってきた馬とダートが乗ってきた馬に乗って、先に目的地を目指すことになった俺達。


「で、なんでまた俺はサラシで固定されてるんだ?」


 前の馬に引かれるように、後ろの馬が繋がれている。

 その上に俺は座らされて、落ちないように足を固められていた。


「流石に一匹の上に3人は可哀想でしょう」

 ダートがサラシの端をキツく結びながら答える。


「3人? もう一人は誰が……」

「私にゃ」

 俺の声を遮りながら、ヒラリとリンクスの後ろに飛び乗ったのは。

「タマールさん?」


「馬車は悪漢に狙われるだろうから、タマールさんだけ先に行って貰うことにしたんですよ」


 当然という風にダートが言うわけだが、俺はいまいち納得がいかない。

「それなら俺がリンクスさんの後ろに乗って、タマールさんが馬に一人で乗ればよくない?」


 しかし、ダートは顔をしかめる。

「丸1日女性の体をベタベタ触りまくるつもりですか?」


「えっ?」

 俺そんなベタベタ触ってないよ。

 そんな風に感じたのかと、慌ててリンクスを見たが。


「わ、私は……別にオートリが後ろでも構わないと言ったのだぞ?」

 顔を背けてしどろもどろになりながら返事を返してきた。


 気を使われているっ!?

 すまん、そんなにベタベタ触ったつもりはなかったんだ、ただ腰が細いなぁとか、色々柔らかいなぁとは思ったけれど……むっイカンイカン!

 ちょっと思い出しそうになって、俺は現実に戻ってきた。


 目の前にあるのは、汚物を見るようなダートの目。

「ケンゴさん、不潔ですよ」

「不潔にゃ」


 タマールさんまで追い討ちかけないで!


「というわけで、このまま進んでください。まだ早い時間なので、休憩を挟まなければ今日中には到着できますから」


「っと、それってどのくらい?」

「5つ鐘くらいですかね」


 この世界の時間の単位は、2時間でひとつ鐘が鳴る。

 つまり。


「10時間もこの上にいたらキン○マ潰れちまうぞ!」

「いっそ潰れてください」

「使う予定のないものなんか、無くなっていいにゃ?」


 二人とも酷い!


 俺のゲンナリした顔を無視して、ダートは前の馬の尻を軽く叩く。

 それに呼応して馬が進み始めた。


「リンクスさん、ナビはオートリさんに任せてください。出来るだけ早く町についてて身を隠してくださいね」


「わかった、恩に着る!」

 リンクスは片手を上げて挨拶をすると、手綱を振って馬の速度を少しずつ上げていった。


「あ痛っ……痛てて」

 馬の歩きに合わせて、股関節がゴンゴンぶつかる。


「いい気味にゃんね」

 タマールさんが時々チラチラとこちらを伺い、にやにやと笑っている。


「乗馬にはリズムがある、あぶみと体で上手にそのリズムに乗るといいんだ」

 リンクスさんは心配そうにしながらコツを教えてくれるが、下半身がぐるぐる巻き過ぎてどうもうまく行かない。


「痛っ……あ痛たたぁ」

 2つ鐘過ぎてもこの調子だ。


「流石にレパートリー無さすぎて飽きてきたにゃ」

 タマールさんは早々に興味を失い始めている様子。

 いや、逆に4時間楽しめただけでもすごいよ!


「ちょっと休憩を取ろう」

 流石に可哀想が限界を超えたのか、リンクスが馬を止めてサラシを外してくれた。


「はぁ、生き返る」

 ナニがとは言わないが、このまま10時間ぶっ通しだったら、着いた頃にはオネェ言葉で喋ってたに違いない。


「こんなにぐるぐる巻きにされていては、上手くなるものもならないぞ」

 ため息をつき、心配そうにリンクスがこぼす。


「はは、今度時間を見つけて練習してみるよ」


「まだ痛むのか?」

 リンクスの視線が俺の股間に注がれている。

 俺はなんだか恥ずかしくなって手で隠した。


「いやっあのだな! 別に変な興味とかではなく、純粋に心配していただけなのだぞ!」

 焦ってしどろもどろに返事をするリンクスは、頬を真っ赤に紅潮させている。


「必死で否定すると余計怪しいのにゃ」

 タマールがジト目でリンクスを見ている。

 その視線までが羞恥に変わるように、リンクスは真っ赤になって下を向いて続ける。


「私は治癒師だ。打ち身等を魔法で治すことが出来るだろ?」

「そっか、こういう痛みも治せるんだ」


 ここから先も長い道のりだ。

 一旦リセット出来るのは正直ありがたい。


「そんなものにヒールは要らないにゃ。全く、いくらすると思ってるのにゃ」

 タマールがそれを制止した。

 そういえばヒールを受けるにはお金が必要というのがこの世界の常識だった。


 しかし、その言葉にリンクスは頭を振る。

「もう私は協会の者ではない。お金を取る義理もないだろう?」

 そっか、リンクスはもう協会員ではないから、納める金も無いわけだ。


 言うが早いか、リンクスは俺の方へ近寄ると魔法の印を結び始める。

 仄かに光る手のひらを、しゃがんで俺の股間へ向けた。

 股間に暖かさを感じる。


「うぅうう、気持ちいい」

「変な声を出すんじゃないにゃ!」

「ぐはっ痛ってぇ」

 タマールさんに後ろからどつかれてしまった。

 あの、ちょっと爪立てるのはやめて貰っていいですかね?

 後ろ頭を手で確認すると、たらりと血がついている。

 マジで容赦ないな!


 結局、頭の傷も癒して貰うことになった。



 サラシを外して貰った俺は、股間のヒールを視野に入れつつ乗馬の練習に励むのだった。

 お陰で到着する頃には、少しだが馬の気持ちがわかった気がする。

 乗馬がうまくなったとは一言も言ってない。

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